私の勤めていた病院には、外科医が20名以上在籍し、部長職を含めた専門スタッフが各疾患別に担当していた。その中で、私は肝胆膵という比較的厄介な臓器を担当していた。
手術フロアーには、医師たちが一息つくための談話室があった。そこでは、われわれが戦闘服と呼んでいた手術着の下に着る寝巻きのような緑の服を着て、よく休息をとっていた。
その部屋には、手術室を映し出すマルチスクリーンがあり、全ての手術室の様子が自動切り替えで見ることができる。私はその部屋のソファーを気に入っていて、手術の合間にはいつもごろごろしながら麻酔の様子やら主治医のメスさばき、看護師の動きなどを観察するのが趣味だった。
ある日の朝、手術前に談話室でこんなことがあった。
「先生、今日は何の手術ですか」と手術マスクをつけながら泌尿器科のK部長に尋ねられた。
「今日は朝がラパ胆(腹腔鏡胆嚢摘出術)。ラパ胆やって、で昼から肝切(肝臓切除術)ですよ。ところで、今度の病院機能評価大変ですよね」と私。
「病院のお受験みたいなものですからね。今度、シミュレーションの会合ありますから、先生よろしくね」とK部長。
「はい。さー、今日もがんばろうかな」と自分自身に声をかけ、気合モードにスイッチを切り替え、手術室へ向かった。
丁寧に“手洗い”をしても…
すでに主治医は手洗いを始めていて、手洗い場の奥の準備室では看護師さんが2~3人テーブルでノートに何やら記しているところが目に飛び込んできた。