2009年は弱毒性新型インフルエンザのパンデミックが発生し、2011年には3.11東日本大震災が発生した。その派生による大津波や原発事故に対しては、幾度となく“想定外”という言葉が使われていたので記憶に新しい。

「これからの津波対策は防波堤ひとつに頼ることなくさまざまな防災を重ね合わせる多層防御で減災しなければ」というテレビから専門家の言葉を耳にした私は鳥インフルエンザを起因とする強毒性新型インフルエンザの恐怖を忘れようとしている自分に気づいた。同時に2008年、東京都のある保健所で開催されたセミナーのことを思い出した。

「H5N1新型インフルエンザが海外で発生した場合、日本は数週間で大流行すなわちパンデミックの波にのまれます。現在の鳥インフルエンザは濃厚接触で限定的に人に感染していますが、鳥型が人型への変異すなわち、飛まつや軽微な接触で感染する能力をウイルスが獲得したとき、人型の新型インフルエンザとなります。一方、鳥インフルエンザに感染した人の致死率が60%をこえている理由は呼吸器感染だけでなく全身感染を引き起こすためです。日本では2500万人が同時期に感染するパンデミックが予測され、死亡率2%であった弱毒性のスペイン風邪とは異なる10~15%程度の致死率を各国専門機関は予測しています。特に40歳以下の若年者が中心に感染することが予測されています」

 説明と同時に、若年層が高い致死率を示す棒グラフが映し出される。

「ワクチンは新型のウイルスが同定できてから半年以上かかりますので現存する鳥インフルエンザウイルスから作ったワクチンすなわちプレパンデミックワクチンを事前に投与することが最大の防災対策になります」

 とインフルエンザの専門家の方の講演は続く。次演者に私が招かれた理由は、濃度管理した二酸化塩素の発生装置を用いた感染実験で死亡率50%のマウスの死亡率を0%に阻止しえた空間除菌法が英国科学雑誌JGVに掲載され、ラスベガスで開催された第5回国際鳥インフルエンザサミットやパラオの大統領にもプレゼンした感染対策が東京都の保健機関にも理解されたからであった。

「では、引き続きましてT薬品株式会社の産業医でもある柴田先生より新型インフルエンザ対策と三層防衛についてお話いただきます」

 と都の職員の方が私を紹介した。壇上から見渡すと公的病院やライフライン、特に消防や警察の幹部や危機管理担当の方々、さらには医師会の方、行政の方も参加されていた。