75歳以上の後期高齢者を対象とする新たな健康保険制度が、4月1日から始まった。野党は「現代の姥捨て山」だと政府与党を攻撃し、メディアはお年寄りの怒り、生活の苦しさをあの手この手で取り上げる。
しかし、保険制度が複雑であるがゆえに、それらの批判には要所を外したものも多く、問題の本質がどこにあるのか極めて分かりくい。
結論を先に言えば、この制度は極めて無責任、制度設計の論理はあちこちで綻びた、出来の悪いものである。「現代の姥捨て山」である本当の理由を、以下に見ていこう。
まずは、健康保険制度を簡単に復習しておこう。私達は、企業や産業単位の「組合管掌健康保険(組合健保)」、その組合健保をもたない中小企業勤務の者であれば「政府管掌健康保険組合(政管健保)」、公務員あるいは私学校教職員なら「共済組合」、それ以外の人は市町村単位の「国民保険(国保)」、4つの健康保険いずれかに加入している。
今回の制度の対象となる75歳以上の人々は、被扶養者なら扶養者が加入している健康保険、そうでなければ国保に加入している。一方で、あまり知られていないが、彼らに対して給付だけを行う「老人保健」がある(給付とは、自己負担分以外の医療費を病院に支払うことを指す)。
つまり、これまでは、75歳以上の人々が加入する健康保険はバラバラ、なおかつ給付を受ける老人保健は別に存在した。だから、今回の後期高齢者医療制度は、別々だった加入と給付(負担と受益と言い換えてもいい)を一体化して“新しい健康保険”を作った、ということになる。
加入と給付、負担と受益の一体化は、本来の健康保険のあるべき正しい姿である。給付費が増えれば、当然保険料は上がる。その両者の関係が加入者に見えやすくなり、給付抑制のインセンテイブが働きやすくなるからだ。
今回の新制度の狙いも、まさしくそこにある。自ら保険料を支払う痛みを感じて、給付抑制の努力をしてくれ、と言うわけである。だから、悲鳴を上げる老人が増えることは、政府の狙い通りの結果なのである。
では、この“正しい措置”の何が間違っているのだろうか。
もう一度、後期高齢者医療制度という言葉をよく見てほしい。政府もメディアもあたかも、“新しい健康保険制度”のように伝えている。