度を越えた企業間競争のせいで、民主主義が息切れしていると警鐘を鳴らすのは、クリントン政権下で労働長官を務めたロバート・ライシュ博士だ。先進国が等しく抱えている格差問題の核心を、公共政策の大家に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
ロバート・ライシュ氏 |
今、米国をはじめとする先進国が抱えている格差問題は、「スーパーキャピタリズム」によって引き起こされている。
スーパーキャピタリズムとは、きわめて激しい競合環境にある企業活動が、人々の市民としてのあり方を脅かし、民主主義を息切れさせている状態のことである。皆が同じ収入を得るべきだとは思わないが、格差が民主主義社会にとってよくないことは確かだ。
われわれは皆二つの相反する人格を内に併せ持っている。一つは消費者あるいは投資家としての一面、もう一つは市民としての一面である。
消費者や投資家としてのわれわれは、安価なモノや幅広い品揃えを求め、また投資への最大限のリターンを要求して企業に圧力をかける。どの企業も、その要望に応えるために超競合状態に入り、少しでも有利に動こうと政府に対してロビー活動を行なう。
その結果、われわれは品質の優れた商品を目の前にし、しかもモノの価格はどんどん下がっていくというありがたい時代に住めるようになった。
一方、市民としてのわれわれは、自らの価値観や人生の目標を表現したり分かち合ったりする機会を求めている。だが今、多くの人々が自分のコミュニティや国家への共感を失い、他人に無関心になっている。スーパーキャピタリズムは民主主義をひき逃げしてしまったのだ。
1945~75年頃までは、民主的資本主義が成り立っていた時代だった。企業間の競合がさして激しくなく、大企業がある程度の社会的責任を肩代わりし、経営者は公共的な視点を持つ人物として尊敬されていた。収入や富の不均衡も、どの時代よりも小さかった。
しかし、だからといって、この時代に戻れというのではない。人種差別や公害など、当時も大きな社会問題はあったからだ。