公務員の危機#21英スターマー労働党政権は、米トランプ共和党政権との間で友好的な関係を構築している Photo:Carl Court/gettyimages

英国の労働党と友党関係にあるのは従来、米国民主党だった。ところが、英スターマー労働党政権は、意外にも、米トランプ共和党政権との間に友好的な関係を構築している。トランプ関税を巡る交渉で、英国だけいち早く合意できた理由の一つに、トランプ政権発足前から両首脳の最側近同士による議論が始められていたことがあるとみられる。特集『公務員の危機』の#21では、国内外の行政組織、官僚制に精通している吉牟田剛・大阪大学招聘教授に、英国の公務員制度がいかにアップデートされてきたかや、改善が必要とされる課題を解説してもらった。

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吉牟田剛・大阪大学招聘教授よしむた・つよし/1988年東京大学経済学部卒業、総理府・総務庁(当時)入庁、93年米ハーバード大学ケネディ・スクール留学、99年外務省在米国日本国大使館一等書記官(政務班)、2002年内閣官房行政改革推進事務局企画官(公務員制度改革)、04年行政改革・規制改革担当大臣秘書官(事務)、07年内閣官房内閣参事官(官邸報道室長)、17年内閣府大臣官房審議官(地方分権改革推進)、20年総務省情報公開・個人情報保護審査会事務局長などを経て、23年4月から24年9月まで政策研究大学院大学教授。17年より大阪大学招聘教授。

 わが国や、英国、ドイツ、フランスの国の組織は、基本的に、幹部候補を採用試験で選抜し、内部で時間をかけて育成するキャリア・システムを採っている。行政の継続性、公平性、政治的中立性の必要性から、公務組織においてキャリア・システムはおおむね維持されていくと考えられる。

 しかし、閉鎖的ともいえるキャリア・システムでは、時代の変化に対応した人材ポートフォリオが構築できない、優秀な若者を引き付けることができなくなっているなどの問題が指摘されている。このため、キャリア・システムが空洞化しないための努力が必要となっている。

 では海外の公務員制度改革はどうなっているのだろうか。今回は、英国の状況について説明する。

次ページでは、英国の幹部公務員が外部人材に開かれていった経緯や、合格率2%のファスト・ストリーム(速い昇進)制度を含む幹部人材の選抜方法、待遇、役割などについて徹底解説してもらった。第2期トランプ政権誕生時に、英国政府がスピーディーに対応できた秘訣とは何なのか。