
法の支配や人権がなくなりつつある現在の国際社会は、むき出しの力と力の均衡点の探り合いです。ウクライナの停戦交渉は、命を懸けた暴力団の抗争に似た、まさに「仁義なき戦い」です。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
ウクライナとロシア・米国
まるで「仁義なき戦い」
映画「仁義なき戦い 代理戦争」(深作欣二監督・1973年)を見ていたら、ウクライナの停戦交渉によく似ている場面が出てきました。この映画は、「実録物」と銘打って暴力団の抗争を描いた大ヒットシリーズの第3作です。
広島の呉で小さな組を率いる広能昌三(菅原文太)の元へ、神戸からひし形の代紋を着けた大暴力団の幹部が出張ってきます。自分たちのメンツのため、たもとを分かった兄貴分と手打ちをするよう広能に促すのが目的で、「あんたらが仲良うしてくれんことには、格好つかんのや」と語り掛けます。
すなわち神戸の大組織が米国、弱小の菅原文太の組がウクライナで、元兄貴分で今は敵対しているのがロシア。神戸の組長であるトランプ大統領はプーチン大統領との関係を調整したいが、言うことを聞かないゼレンスキー大統領に往生している、という構図です。
「みんなを相手にして玉砕せなならん」
「下手するとみんなを相手にして、玉砕せなならんような情勢になっとったんやで」
という神戸の幹部のせりふは、
「このままだと米国とロシアを相手に回して、国中が荒廃してしまう。ゼレンスキーよ、ここらでプーチンと仲直りしてくれんか」
と言っているように聞こえます。
国際法を仁義と置き換えてみれば、この任侠映画の世界が身近になります。法の支配や人権がなくなりつつある現在の国際社会は、むき出しの力と力の均衡点の探り合いです。命を懸けた暴力団の抗争に似た、まさに「仁義なき戦い」。「代理戦争」というタイトルが意味深長です。