米証券4位リーマン・ブラザーズの経営破綻、米保険最大手AIGの政府救済といった大ニュースと重なったことで、今一つ印象が薄く、その中身や、行方に関する考察があまり伝わってこないのが、バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収だ。メリルといえば、ブローカーとしては全米1位、投資銀行としては全米3位であり、一方のバンカメは全米2位の銀行である。「平時」であれば、金融界としては相当衝撃的なニュースであり、グローバルな金融再編の行方を左右する巨大案件として、議論がひとしきり行われていたはずだ。

 欧米メディアによるこの間の報道に目を通しても、交渉時の話が報じられている程度であり、ディール成立後に何がどうなるのかといった肝心の部分が伝わっていない。ただ、報道されている内容は、銀行システムの中に投資銀行を抱え込む問題点を議論する上で、少なくとも示唆には富んでいるので、ここで簡単に振り返っておきたい。

 米国のメディアの中では恐らく一番深く報じていたであろうウォールストリートジャーナル(WSJ)によれば、メリルはバンカメへの身売りを決める前に、ライバルである証券最大手のゴールドマン・サックスとの資本提携(自社株の一部売却)の可能性や証券2位のモルガン・スタンレーとの合併の線も探っていたようだ。しかし、リーマンの公的救済の可能性がなくなったことを受けて、資本提携だけでは生き残れないことを悟り、まずゴールドマン・サックスの線が消えて、その後、モルガン・スタンレーとの合併交渉も進まず、当初はリーマン買収の可能性を検討していたバンカメが見売り先として浮上した模様だ。WSJによれば、メリルのジョン・セインCEOはバンカメのケネス・ルイスCEOに9月13日の土曜日に電話をかけて、その後一日でデューデリジェンスを済ませ、週明けの15日には、二人揃って、バンカメによるメリル買収を発表した。

 米国の金融界を巡る現況は、1997~1998年の金融危機から金融再編に至った日本に何やら似ている。証券4番手の山一證券とリーマンは潰れ、3番手の日興証券とメリルはそれぞれ銀行の傘下に入った(日興はシティ・グループの傘下に入った)。これまでのところ、2位のモルガン・スタンレーは地銀4位のワコビアとの合併を模索していると報じられていたが、日本でも当時2位の大和証券は住友銀行と組んだ。ワコビアという銀行を資金源というか生命維持装置の代わりにしようというモルガン・スタンレーの考え方は、銀行と組みながらも、なんとか自分たちの主導権を残した大和証券のスタイルに似ている。もっとも、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが銀行持株会社としてFRBの監督下に入ることを発表するなど、事態は急速に進んでいる(22日にはモルガン・スタンレーは同行株式のうち最大20%を三菱UFJフィナンシャル・グループに売却する旨で合意したと発表した)。