予想はしていたが「まさか」という時の驚きには二種類ある。「まさか、そこまではあるまい」という事が起こった時の驚きと、「予想はしていたが、まさか、こんなに早いのか」という時の驚きだ。今回のニュースは、後者の範疇に属する。

 たぶん「100年に一度の危機」が終わらないうちに何とかしようと思ったのだろう。何と、政策投資銀行の完全民営化方針が早くもこの時期に撤回されるかも知れないという。

 「産経新聞」(5月29日)は一面トップで「政投銀の完全民営化撤回 政府・与党 将来も公的役割」と報じた。政投銀は、昨年10月に将来の完全民営化を前提に株式会社化され(資本金1兆円。政府の全額出資)、5年から7年先を目処に完全民営化されることになっていた。しかし、今回、将来も政府が株式を3分の1以上保有しつづけて影響力を行使できる形を維持して、完全民営化を撤回することが決まりそうだという。

 「産経」の見出しには「政府・与党」とあるが、記事をよく読むと、もともと民主党が、深刻な景気低迷に対応するため「民営化を完全に撤回すべきだ」と主張して、これに、28日に開かれた衆議院財務金融委員会の与野党協議で与党が同調する方針を示したのだという。

 政投銀完全民営化の撤回は、与野党を挙げて決まる国民の総意だということになりそうなのだ。政投銀の民営化が決まった小泉内閣時代、一部では、官僚の抵抗が大きい同行の民営化こそが、いわゆる「構造改革」の本丸的な意味を持つと言われていたものだった。これを与野党一致して逆転するというのだから、時代のムードは、目下、「反小泉」、「反構造改革」ということなのだろう。

 もっとも、記事によると、与党内には、危機が終わった後には完全に民営化すべきだとの異論もあるようだ。今後の国会運営次第では、完全民営化方針の完全な撤回には至らない可能性もあるという。

 筆者は、会社としての日本郵政にも、持株会社の社長としての西川善文氏にも全く同情しない。しかし、「かんぽの宿」が問題化し、さらに郵便割引の不正利用の問題が表面化するなど、民営化された日本郵政の「足を引っ張る」状況が集中的に噴出していることと、政投銀を巡る動きは似ているように思う。