橘玲の日々刻々 2019年11月18日

世界でも特殊な「戸籍」を廃止することで
「共同親権」を実現しよう!
【橘玲の日々刻々】

 日本では、離婚すると子どもの親権を父親と母親のどちらかが持つことになります。これが「単独親権」で、日本人は当たり前と思っていますが、いまや世界では少数派です。

 離婚によって夫婦関係は解消されますが、親子の関係までなくなるわけではありません。そう考えれば、「どちらか一方しか親として認めない」という制度には無理があります。

 子どもは離婚後も、父母の双方を親と思っているでしょう。それにもかかわらず、法律によって父子、あるいは母子のいずれかの関係を強制的に切り捨てるのは、子どもの人権の観点から重大な問題があります。

 法律家のあいだでも、単独親権によって離婚訴訟がこじれ、その後の面会や養育費の支払いの障害になっているとの認識が広まっています。裁判所は「幼い子どもの養育には母親が必要」との立場なので、父親が親権を失うことがほとんどです。「親でなくなった」ことで子どもと面会すらさせてもらえないなら、真面目に養育費を払う気もなくなるでしょう。

 その結果、日本では離婚による母子家庭のうち、養育費を受け取っているのが4~5人に1人しかいないという異常なことになっています。国際比較で日本はシングルマザーの貧困率が極端に高いのですが、その原因の一端は、「母親が親権を独占した結果、父親が子育てを支援しなくなる」ことにあります。

 いまや先進国で単独親権は日本くらいになったこともあって、法務省は共同親権の導入に向けた研究会の設置を決めました。しかし、ここにはやっかいな問題が控えています。それが「戸籍制度」です。

 ほとんど指摘されませんが、戸籍は世界のなかで日本にしかないきわめて特殊な制度です(韓国も戸籍制度を採用していましたが、2007年かぎりで廃止されました)(1)。

 日本が単独親権なのは、夫婦が離婚したあと、子どもがどちらの「イエ(戸籍)」に入るかを決めなくてはならないからです。母親が親権を持てば、子どもは父親の戸籍から排除されます。そうなると父親の親族は、「ウチのイエの子でもないのにお金を渡す必要なんかない」と考えるようになるでしょう。養育費の不払いがさしたる問題にならないのは、「イエ」の論理によって、社会がそれを許容しているからです。

 戸籍制度をそのままにして共同親権を導入すると、(たとえば)子どもは母親の戸籍に入れて、父親にも親権を持たせるようにするしかありません。しかしこれでは、父母は対等の関係になりません。祖父母など親族や周囲も、母親が「ほんとうの親」で、父親は「にせものの(二次的な)親」と考えるに決まっています。結局、いまの単独親権をちょっと言い換えただけになってしまうのです。

 「親権があるって主張するけど、戸籍上の親じゃないんだから黙ってろ」という話にならないようにするには、まず戸籍制度を廃止する必要があります。そもそも近代的な市民社会を、「個人」ではなく「イエ」単位で管理することがおかしいのです。

 共同親権の導入を目指す法務省の研究会は、はたしてこの議論に踏み込めるでしょうか? 大いに期待したいと思います。

註(1):日本の戸籍制度とは異なるものの、中国は「都市戸籍」「農村戸籍」で居住区域を定めたり、住民サービスを制限しています。日本統治下にあった台湾でも、ID制度(国民総背番号制)と戸籍制度が併存しています。

『週刊プレイボーイ』2019年11月11日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『上級国民/下級国民』(小学館新書)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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