イエバエによる畜ふんの処理は
自然の摂理を生かしたもの

イエバエによる飼料や有機肥料の"生産手法"は、次のようなものだ。原料として、豚ぷんや牛ふん、鶏ふんでも、いわゆる畜ふんにイエバエの卵をまく。すると卵は8時間ほどで孵化(ふか)して幼虫となり、その幼虫が分泌する消化酵素によって畜ふんを消化することで畜ふん中の栄養を摂取して成長する。5日ほどすると、幼虫はサナギになるために自ら畜ふんの中からはい出てくる。この幼虫を特殊な形状の容器で集め、熱処理の後に乾燥すると飼料になる。また、消化後の畜ふんは臭いがない有機肥料になる。

第2回:「みどりの食料システム戦略」が創り出す農業の多様な未来を実感する「アグリビジネス創出フェア2023」レポート黒色のペレットは、イエバエの幼虫が畜ふんを消化したものをペレット化した有機肥料で、茶色の乾燥物は幼虫を乾燥させて作った飼料。どちらも無臭

「これまでの研究で、1トンの畜ふんに対して卵は300グラムほどあればよく、そこから飼料が約1割(100キログラム)、肥料が約3割(300キログラム)採れることが確認されています。畜ふんは水分が70~80%ほどあった方が良く、つまりフレッシュな畜ふんほどイエバエによる処理がうまくいくことも分かっています」(串間CEO)

日本で排出される畜ふんは年間約8000万トンといわれる。現在、その有効活用のために多くは微生物によって堆肥にしているが、従来の方法ではCO2の25倍の温室効果ガスであるCH4(メタンガス)や298倍のN2O(亜酸化窒素)を、数カ月にわたって大気に放出する。国内でもCH4(メタンガス)の放出量のうち畜ふん処理は9%を占め、N2O(亜酸化窒素)では20%を占めている。(出典:国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」2023年4月)。NH3(アンモニア)による悪臭被害も深刻だ。

しかし、ムスカのイエバエ利用では処理期間はわずか1週間で資源化でき、温室効果ガスの発生を最低限に抑えられ、雨水による地下水や河川の汚染問題も発生しにくいといった大きなメリットがある。

「大学の研究などでは養殖魚の餌として使えば感染症対策のための抗生物質の投与量を減らせる可能性や、肥料としては土壌病原菌に対して抑制効果があり病気の予防効果を持つ可能性があることなどが分かっています。つまりイエバエによる畜ふん処理は、自然の摂理に極めて近いプロセスであるだけでなく、同時に機能性に優れた飼料と肥料を産み出すのです」(串間CEO)

宮崎県では地鶏で有名な石坂村地鶏牧場(宮崎市)でも飼料として導入され、育った地鶏は好評を得ているという。

現在、化学肥料は原料のほぼ100%を輸入に依存しており、イエバエは化学肥料から国産の有機肥料への転換を促すものとなる。また同じく飼料の輸入依存度を低減するなどの戦略的な意味合いも持つことになる。ムスカでは、こうした取り組みについてみどりの食料システム法に基づく基盤確立事業の認定を受けており、2024年には豚ぷん処理をメインとしたパイロットプラントの稼働を始め、本格的に大型工場での大量生産実証段階に入る予定だ。