東京の女子中学受験は、最難関校倍率が高止まり

 ――第1志望校が集まる2月1日午前入試ですが、2024年は全体的に最難関校を回避するトレンドだと聞きましたが、女子だけを見るとどうなんでしょうか。

 竹本:まず、難関女子校・共学校を偏差値によって3つのゾーンに分けます。

 Aゾーンは桜蔭、女子学院、渋谷学園渋谷①、早稲田実業、洗足学園①、雙葉。

 Bゾーンは広尾学園①本科、フェリス女学院、吉祥女子①、鷗友学園女子①、頌栄女子学院①、東洋英和女学院A、中央大附属①、立教女学院。

 Cゾーンは学習院女子A、中央大横浜附属横浜①、香蘭女学校①、青山学院横浜英和A、芝浦工大附属①、開智日本橋①、成蹊①、都市大等々力①特選です。

*①は第1回入学試験、AはA日程を意味する

 これらの中学における、2023年度入試から2024年度入試の受験者数の増減は、Aゾーンは2,330人から2,227人、Bゾーンは2,873人から2,766人、Cゾーンは1,552人から1,610人。AゾーンとBゾーン、つまり最難関校と難関校へのチャレンジを回避した層が一定数Cゾーンに流れていると見ることができます。 

 ――AゾーンからCゾーンまでの難関校は、前年から155名減っていますね。「今、中学受験で増えているのは中堅校をターゲットにする層だ」とはよく聞きますが、難関校受験の倍率は落ち着いているようです。これは今年だけのトレンドでしょうか。 

 竹本:今年だけではないですね。御三家はこの4年間を見ても倍率は緩和され、女子学院は2022年度が2.57倍、2023年度が2.35倍、2024年度が2.27倍と、2年連続で倍率が低下しています。豊島岡は2月1日に入試はないのですが、2年連続で倍率がわずかに下がっています。御三家や豊島岡以外の難関校も全体的には微減です。フェリス、洗足、頌栄、鷗友の2月1日の倍率は2年連続で下がっています。

 唯一、倍率が高止まりしているのは吉祥女子で、2023年度と今年の2年連続で3.05倍です。他はどこも2倍台なので、吉祥女子は難関女子校の中でも人気が高い学校といえましょう。反対に洗足は2022年度は3.48倍、2023年度は3.19倍、2024年度は2.96倍と、倍率が3倍を切っています。洗足は御三家相当の難易度なので、人気も高止まりしてきたのかもしれません。

付属校や「国際系」の難関校の人気が継続

 ――付属校はいかがですか。一時に比べ、付属校人気も落ち着いてきたと耳にします。

 竹本:女子に関しては大学付属校人気は変わらずです。全日程を見ても早稲田、学習院、青山学院、明治、立教、中央の各大学の付属校や系列校は受験者数が増えています。

 2024年度は明治大学付属八王子と中央大学附属、中央大学附属横浜の2月1日午前入試の受験生が増えていて、それらの学校を第1志望にしている受験生が増えていることもわかります。

 また、女子校では学習院女子が2月1日入試で58名、2月2日入試で111名も増えています。2月1日の受験生は282名なので、増加率は相当な高さです。

学習院女子中等科
学習院女子中等科 出典:pixta

 一方、立教女学院は2月1日入試が前年度比で60名減っています。こちらも受験者数は274名なので大きく減らしています。この2校は共通点が多いのです。付属校で女子校。場所も杉並区久我山と新宿区戸山で、エリアがとても離れているわけではありません。

 そのため、「GMARCHの付属校で女子校を受験したい」と考える受験生は、2月1日入試でいずれかを選択することになります。どちらかに受験生が集まれば、もう片方は減るという現象が起こりやすいのです。今年は学習院女子が人気だったので、立教女学院は減らしたということになります。

 立教大学の系列校では香蘭の2月1日が9人減、2月2日が4人減となっています。進学校の趣があり、大学受験で立教以外の大学を目指すことを前提にした受験生も多かった香蘭ですが、今は指定校推薦が増えたことで、立教大学への進学を視野に入れて受験するケースも一定数います。

 ――付属校以外の共学の難関校はいかがでしょうか。グローバル教育に力を入れている、いわゆる「国際系」の難関校です。今や渋幕は女子の最難関校ですが、人気は変わらないのでしょうか。

 竹本:難関「国際系」は、いずれも受験生が増加傾向にありますね。1月20日の市川は、2021年は2.64、2023年は2.89人、2024年は2.99倍。1月22日の渋谷教育学園幕張は、2022年は3.10倍、2023年は3.63倍、2024年は3.77倍。2月1日は渋谷教育学園渋谷が2022年2.25倍、2023年2.63倍、2024年3.98倍。これらの中学は3年連続受験者を増やしていますね。

 2月1日の広尾学園の本科は2022年5.29倍、2023年6.27倍、2024年は5.31倍と減らしていますが、去年増加したのでその反動でしょう。

埼玉では地元志向が目立つ

 ――地域別にはどうですか。今年は埼玉の受験者数が増えたという動向が報じられていますが。女子はいかがでしたか。

 竹本東京の生徒が埼玉の学校を受ける数は増えましたが、埼玉在住の受験生が東京の学校を受ける数は減っていて、地元志向が見受けられます。

 2024年度入試の注目校は、なんといっても淑徳与野です。今年から医進コースをスタートさせたことで注目を集め、御三家の併願校として受験する生徒も多くいました。

 東京まで通学しなくても、地元で評判のよい学校に通わせようというトレンドのひとつと考えられます。

最難関校では差がつく問題が出題される

 ――入試問題はいかがでしょうか。算数は中堅校でも立体図形の切断が出てきているとも聞きますが。

 竹本:女子校だと、そう多くの学校では出ません。最難関校の桜蔭や豊島岡、それと最近では洗足ですね。出題する理由としては、やはり点差がつくからでしょう。桜蔭や豊島岡、洗足を受ける層は皆きちんと勉強をしてきていますから、差をつけるとしたら立体図形の問題を出すことになります。

 また、それ以外の女子校でも典型題をそのまま出すことは減っており、何かしらの工夫が見られる問題が多いようです。

 今年の出題では、鷗友で平行四辺形を折りたたむ問題が出ました。折りたたむとどうなるかを自分で作図する必要があります。フリーハンドで作図するトレーニングをしなくてはなりませんから、普段から自分自身の手を動かして問題を解くようにしたいですね。

 国語は長文化が進んでいるのと、記述問題が増えています。これは国語だけではないのですが、問題文が書籍からの引用ではなく、ネット記事からの引用なども出てきています。男子校や共学と比べて、女子校は記述で字数制限がない問題が多いのも特徴です。

 国語もそうですが、社会でも自分の考えを述べさせる問題が増えています。東洋英和女学院では、フランス人のビゴーが書いた明治時代の日本の風刺画を提示し、そこから読み取れるものを書かせる問題が出ました。必要とされる知識は教科書レベルですが、その知識をもとにして考えさせる問題です。

 思考力を求める問題の増加からも、自分の頭で考える力を求める学校が増えてきていることがわかります。付け焼き刃の知識ではなく、身の周りの出来事について、日頃から「なぜ?」という視点を持つことが、特に難関校を目指していく上では重要です。

まとめ|首都圏女子の中学受験の動向

 首都圏女子の中学受験は、最難関校の倍率が高止まりしている一方で、付属校や国際系の難関校も引き続き高い人気があるようだ。受験問題は難易度が高まり、どの科目でも思考力を問う問題が見られるようになり、難関校を目指す生徒は対策が必要だろう。