経済格差の拡大が大学に及ぼす影響    

後藤 選抜という観点からすると、学校推薦型にはおかしな要素もあります。例えば、評定平均値が足りなくても“一時的な評価”として基準に合った評価を提出できます。高3の最終的な成績はすべての授業が終わったときにしか付かないので、平均評定値を3年1学期に出すこと自体にそもそも無理があるわけです。

安田 有名私立大は学生確保のため付属校や系属校をたくさんつくって、学校推薦枠も増やして、残りを一般選抜で調整した。その結果、推薦は入学定員の5割までとのルールはあるものの、総合型選抜を含めれば全体の6割近くまで入学者確保に利用できて、一般選抜の枠を入学定員の4割にまで減らすのでは、一般選抜の受験生がかわいそうです。

後藤 募集定員という観点からは、何人来るのか実際には分からない指定校推薦の定員枠はあってないようなものです。校長が誰を推薦するかを決めるわけで、極端なことを言えば情実入学みたいなものです。

 以前、入試課長をしていた大学に、ある高校から「いい子がいるんだけど、指定校推薦の枠をくれないか? ○○大学や△△大学はくれたんだけど」という電話が来たことがあります。どこかの呼び込みみたいですが(笑)、「そういう大学ではないので」と電話を切りました(笑)。入学者確保に苦しむ大学は喜んで推薦枠を渡したことでしょう。これからますます少子化が激しくなれば、こういうことがあちらこちらで起きうるわけです。

 少子化で18歳人口は減り、受験生は減る一方。このままだと、競争がなくなり学生のレベルは下がっていってしまう。東京の大学だったら地方や海外に入学者を求めるのでしょうが、地方からは東京の大学に進学させる余力がなくなってきています。

安田 私立大の初年度納付金は、理工系だと160万円、文系でも120万~130万円くらいかかります。その点、国立大は理工系で半額の80万円ですから、修士課程までの6年間が前提の理工系などはどうしても国公立志向になりますよね。

後藤 私の地元では、名古屋大医学部に合格すると、親からベンツをプレゼントされる(笑)。私大医学部の学費を考えたら、それでも十分にお釣りが来ますから。

安田 私立医科大の合格者を見ると私立一貫校ばかりです。私立医科大は平均で初年度700万円以上、6年間平均で3000万円くらいかかる。国公立大の医学部に進むのとは1ケタ違います。

後藤 地方の問題は教員や医師の養成課程ですでに顕在化しています。

安田 地方国立大の定員増の話が出てきています。例えば島根には私立大がなく、国公立の大学しかありません。これは県によっても、全然置かれている立場が異なりますので、一律には論じられないところがあります。

後藤 地域間でも地域内でも経済格差が顕著になっています。次回触れようと思うのですが、地方が生き残るためには大学進学率を維持向上しないと、地方の経済も行政も持たないと思います。