「探究」型に変わる日本史と世界史のB科目

後藤健夫
後藤健夫(ごとう・たけお)
教育ジャーナリスト&アクティビスト。1961年愛知生まれ。南山大学在学中から河合塾に。大学卒業後に就職して以来、東京で勤務。その後、独立。早稲田大学や東京工科大学での入試関連業務に従事する一方で、経済産業省や自治体のプロジェクトなどにも参画。編書に、『セオリー・オブ・ナレッジー世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)。

後藤 「歴史総合」を学びながら、「探究」もやっていくのがこれからの高校での歴史学習の流れです。いままで古代から現代まで通史的なことを学んできた「日本史B」と「世界史B」は、「日本史探究」と「世界史探究」という探究型の学びに大きく変わります。世界史も日本史も、私立文系3教科(国語・英語・地理歴史)で、もしいままで通りの出題が続くとしたら、高校の現場の教育とギャップが生じてしまいます。

石川 新しい教科書を見ましたが、山川出版社と東京書籍では全然違います。山川は昔のままで、正しい史実をここに載せてあるから、探究は自分たちでどうぞという書き方です。えらいボリュームですが。

後藤 以前のものでも歴史事項がいっぱい載っていて、さらにそれで探究しろと言われても…。

石川 無理だと思います。現場から以前と変わらないように作ってくれという強い声があるからです。私学の先生が山川を使うからです。いままでのように知識を詰め込んでからでは無理があります。探究の時間は持てないと思います。

後藤 日本史ができるというのはどういうことか。学習指導要領的な日本史の見方・考え方がこれからの共通テストに色濃く出てくるはずです。元来は教科書がどうであれ、「教科書で」教えれば良いのですが、なかなかそれができなくて、「教科書を」教える教員が多い。教科書検定は、探究の要素が入ってさえいれば、それが少なくても通ってしまう。

 ここで一つ問題があります。大学は、採択数の多い教科書を参考に作問しますから、学習指導要領の改訂をあまり反映しない教科書の採択数が多いと、入試問題は従来と変わらなくなる可能性が大きくなるんですよね。そうなると、学習指導要領の改訂は何だったのかとなります。

石川 東京書籍の方は結構熱い精神が書かれています。探究って結局、昔の資料集のような、本文を支えるいろいろな図表や資料に興味を持ってほしいという流れです。共通テストも、社会課題を解決する糸口として、そういう切り口の問題が多くなる流れだと思います。

――何をどのように教えるのかという問題は、評価の仕方とも連動していると思います。

石川 歴史の事象を丸暗記させて、それを評価している先生も多いですが、探究型の授業を行いながら、知識をいままでのように問おうとすると無理が出てきます。

後藤 まあ、覚えた歴史の事象を確認した方が楽ですからねえ。小テストの丸付けもいまや自動的にできてしまうし。

石川 小テストをベースに定期テストを行う。あとは、ノートをとったとか、グループワークの提出物を出したとかで評価しているケースが多いですね。

 課題解決を考えさせるような授業のスタイルは非常に少なく、まだ調べ学習が多いです。本来、共通テストに出てくるような問題は、課題解決のための情報収集や整理分析の視点をまず問われてから、その後に、あなたはどのように考えるのかが問われます。ところが実際には、情報の収集で終わるケースが多い。アクティブラーニングの流れから、それを探究だと思っている先生もまだいますから。

後藤 探究の時間が調べ学習で終わってしまう例はすごく多いですね。「あ~、よく調べたね」で先生が満足してしまう。「それをどう考えますか」とは尋ねない。生徒もよく分からないまま、ウィキペディアに載っているようなことをコピペして、暗記して発表を終える(笑)。

石川 パワポと動画は、生徒がすごく得意ですから。先生方からすると、自分たちよりもそうしたものが上手に作れているということで、拍手になってしまいます。

後藤 教える側に、探究型の授業をやるマインドがないからです。教員自身、そういった経験がないですから。ところが、いまでは小学校でもそのような発表はしてきています。ですから、そういうものを「表現力」と言って評価する必要はありません。ところが、うわべのきれいさを評価する傾向があって、自分の考えをどう表現するかということを評価していない。そこは大きな問題です。