法政大と共に「MARCH」の恩恵を受けてきた明治大は、頭一つ抜けた存在に(リバティホール 東京・千代田区)

早稲田大“10万人割れショック”とその後

――今回は、大学通信が毎年公表している私立大の一般選抜入試志願者数ランキングについて、見ていきたいと思います。図1のように、2023年度は1位近畿大、2位千葉工業大、3位明治大でした。早稲田大が全国の大学志願者数でトップという時代が長く続きましたが、様変わりした印象があります。

井沢 少なくとも1970年代半ばから、早稲田の志願者数は10万人を超えていました。89年度に16万人を超えてピークに達してからは、少子化(受験者数の減少)に合わせて減っていきましたが、それでも10万人台を維持していました。

 ところが、政治経済学部が共通テストの数学I・Aを必須にするなど全学で入試改革を実施した21年度には、早稲田大は前年比約12%減の9万1659人と、10万人を一挙に割り込んでしまい、話題となりました。 

――当時、亡くなった大学通信の安田賢治さんも、「まさか10万人を割るとは」と驚きのコメントを出していましたね。

後藤健夫(ごとう・たけお)
教育ジャーナリスト。1961年愛知県生まれ。南山大学卒業後、河合塾へ。独立して大学コンサルタント。早稲田大学法科大学院設立に参加。元東京工科大学広報課長、入試課長。執筆のかたわら、武雄アジア大学(佐賀県)の構想実現化ディレクターも務めた。 Photo by Kuniko Hirano

後藤 早稲田の志願者数が10万人台を回復することはもはやありません。これから先、もっと減ります。9万人でもまだ多いと思う。6万人とか5万人程度になるかもしれません。

井沢 われわれの頃は、早稲田の文系学部すべてを併願していました。「受かるわけがないのに。受験料が無駄だ」とか言われながら4学部とか(笑)。いまは併願しても2学部くらいになっているようです。

後藤 誰もが受ける早稲田(笑)。当時の受験生はどうして早稲田を受験するのか聞かれると「いやあ、記念受験ですから」と多くが答えていましたね。そういう受験生が減っていることも背景にあります。

井沢 後藤さんが以前からおっしゃっているように、受験生の母集団の質がしっかりしていて選抜機能が働いていれば、志願者数が減っても構わないわけですね。

 早稲田の合格者数を見ると、倍率(志願者数÷合格者数)は5倍を超えています。一方で、関西の難関国立大の併願先である同志社大などは3倍を割っています。  

後藤 明治大や法政大、関西なら立命館大もそうですが、難度が上位の大学の滑り止めとなる層と、学力下位層からの憧れによるチャレンジという両方の受験生がこうした大学を志願してきます。ところが早稲田の場合は、東京大など難関国立大くらいしか併願先がない。受験生の併願数も減っていますし、下位学力層の受験生が抜けていけば、志願者数はさらに減ることになります。

井沢 それに、一般選抜の割合が、早稲田や慶應義塾大はすでに5割強程度になっています。  

後藤 総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜など非一般選抜の割合をさらに増やすことで、今後、一般選抜は4割程度になるわけでしょう。早稲田はこれらの理由により、今後も一般選抜の志願者数を減らしていくことになります。志願者数の減少は大学もあまり気にしていません。景気が悪いだけです。大学にとってのおカネの問題は、受験料収入の減少よりも研究資金の確保ですね。