基礎学力の担保と多様性の確保

井沢 少子化が進めば進むほど、系属・付属校からの内部進学の割合が増え、総合型や学校推薦型選抜でどんどん取っていく“一本釣り”が強くなります。

井沢秀(いざわ・しげる)
大学通信情報調査・編集部部長。1964年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、大学通信入社。「夕刊フジ」をはじめ、各紙誌で大学に関する多くの連載を持つなど、精力的に発信を続けている。 Photo by Kuniko Hirano

後藤 全体的に見ると、私立大入試の“早慶化”が今後進むことになります。志願者数だけでなく、実質的な“倍率”をきちんと見ないと間違えます。

井沢 非一般選抜で合格した生徒の数は含まれませんから、一般選抜の“倍率”を見る際には注意が必要です。

――記念受験の減少、数学の入試科目入り、非一般選抜の割合増という三つの要因で大きく減少した早稲田の志願者数の推移は、大学受験の構造変化を示しているわけですね。  

後藤 早稲田にとって(受験者の)数が多いと景気がいいというだけの話。それ以上に、自分たちが教えたい学生を確保するためにどうするか。そうした大学側の考えを、志願者の数しか見ない高校のあまり賢くない進路指導の先生がどう捉えるか。

井沢 早稲田にしても、受験料収入で食べているわけではないでしょうから。だから入試を変えたわけですね。

後藤 選抜試験によって、いかに基礎学力を担保するか。その点、「大学10兆円ファンド」で国際卓越研究大学に選定候補となった東北大は、「全員を総合型選抜で取る」とか書いてあるわけです。

井沢 東北大は実際にやりそうですね(笑)。  

後藤 どれだけその選抜のためにスタッフの人員を確保できるか。それは大学のガバナンスの問題が大きい。従来、東北大の場合は、“学力AO”ということで対処しています。その点、入試で面倒くさいことをやりたくない教員が多い東大や京大に同じことは無理でしょう。もっとも、共通テストの得点を見れば受験生の学力は分かりますから。

井沢 一方、学校推薦型入試があるから東大に入ることができたという学校もあります。  

後藤 その点は学生の多様化として機能しているといえます。

井沢 公立校でも、県立秋田高校では博士号を取った教員を配置して、推薦で東大に入るような生徒を育てています。16年度から始まった東大推薦入試で、合格者が出なかったのは1年だけですから。県立岐阜高校もそうですね。1年も欠落していないのが、都立日比谷高校と渋谷教育学園渋谷です。  

後藤 日比谷では保護者にあおられて、生徒が一般選抜で東大を受けるような雰囲気があり、もっと教え込んでくれと注文を付ける保護者がいますが、そういう保護者は日比谷の卒業生でも東大の卒業生でもない場合が多い。

 少子化で自分の時代には入れなかった日比谷に子どもが入ってしまい、東大受験のイメージが自分にないまま、学校に注文を付けるきらいがあります。少子化とはいえ、学校で知識を詰め込んだからといって東大に受かるわけではありません。元来、日比谷がやろうとしている“主体的に考える教育”を邪魔しない方がいい。