非認知能力を高めるために
漆 理事長職を引き継いでから、早稲田大スポーツ科学学術院にある社会人大学院(1年制)に通いました。平田竹男研究室の13期生で、同期にバレーボールの植田辰哉監督やテニスの伊達公子さんがいました。教育にもデータ分析が必要と考えて研究を進めましたが、統計ができないとお話にならず、私、√(ルート)も忘れていましたから(笑)。統計だけで100時間くらい学びました。
なぜこちらの修士課程に通ったかといいますと、私は高校・大学とバスケットボールをやっていた部活大好き人間で、教員になってからも部活で育つ力が生徒の将来に生きることを見てきました。ところが、教員の働き方改革の文脈で部活の必要性が議論されるようになり、これに危機感を覚えました。生徒への教育効果とは別に論じなくては、教員の週休二日制の話がいつの間にか学校五日制にすり替わって準備不足を招いたのと同じようになるのではと。
ニッポンの部活は世界的にもユニークなもので、数字で示しにくい社会的スキル、非認知能力に与える効果があることは、印象だけでなく研究でも明らかです。その検証を置き去りにして教員の労務問題に行ってしまえば、生徒への影響が大きいので、ちょうどそのとき始まっていた国立教育政策研究所の社会情緒的スキルの調査に合わせて本校独自の項目を加え、データを取りました。一時点の調査ではありましたが、本校においては、部活に熱心な生徒ほど、EQなどの非認知能力や自律的学習動機、学業成績も高いという結果が出て、論文を書きました。
――部活と働き方改革は違う問題ですね。こちらの論文(『学校を活性化させる部活動改革』)ですね。
漆 これはその論文の一部を切り取ったもので、部活動の改革についての事例をシェアするつもりでまとめました。継続的にデータを取っていますので、今後それが活用されれば、非認知能力との関係も明らかになっていくと思います。
――和敬塾などでも集団の力で非認知能力を養うと言っていますから、部活も同様の効果がありますね。ところで、オンライン授業については検証されていますか。
漆 コロナ禍のオンライン授業を経て、学校の「集う機能」の重要性を再認識しています。本校も昨年4月13日からオンライン授業を全面的に導入しました。生徒にアンケートを取ったところ、「雑談が足りない」と言っていました。そうしたコミュニケーションの積み重ねが大切だと。
その点で、制度を見直さなければいけないと感じるのが、学校区分です。全日制、定時制、通信制の学校区分は昭和20年代前半の社会構造を前提に作られています。例えば、通信制は戦後の勤労少年向けに、赤ペン先生的に紙をやりとりする前提で制度設計しているので、現代のオンライン授業に当てはめると、受け手側にはもちろん、授業を配信する講師も教員免許がなくてもよく、それを数万単位の生徒へ一斉配信することが可能です。
一方、その他の学校区分でオンラインを利用しようと考えれば、配信側にはもちろん専門教科の教員が必要で、受け手側にも教員免許を持った人がいなければならず、受ける生徒は40人程度までという規制を受けます。教育の選択肢が広がるのはよいことだという前提で、イコールフィッティングの見地から、どの区分の学校に通っても現代のテクノロジーを生かした教育が受けられるような規制緩和が必要と考えます。