「心の旅」としてのキャリア教育
水野 松戸国際高校校長の時、校長室は進路指導室を兼ねていたので、多い年など30人から40人の生徒が出入りしていました。しかし、生徒の実体験だけでは、時間とおカネに限界があります。
建築家の安藤忠雄さんが「本を読むことも世界を広げる『心の旅』なのです」というように、生徒には漠然とした目標であっても、自分の“心の旅”をきちんとしてほしい。この分野に進みたいなら、最低この本を読みなさいという読書指導をして、読後の対話を生徒と重ねました。生徒によっては、渡したはなから「もう読みました」と、週に何回も訪れてくる子もいました。
――校長がキャリア教育を支援していたわけですね。
水野 8月に校長室に来て、「上智大の総合グローバル学部を受けたい」という女子生徒がいました。学力的には相当ハードルが高かった。課題論文のテーマは次のようなものでした。
グローバルイシュー(地球規模問題)を一つ取り上げ、それがどのような問題なのか説明した上、その理解と解決のためにグローバルな視点とローカルな視点がどのように重要であるかを、具体例を挙げながら述べなさい。
とりあえず2000字の論文を書くよう言いましたところ、その生徒は500~600字書いて「先生、これで限界です」と悲鳴を上げてきました。これでは選抜は通らんぞ、ということで、そこから読書指導を始めるのです。ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センとか、政治学者イアン・ブレマーとかの著作を薦めました。その生徒は、10月までの2か月間に12冊を次々と読んでいきました。
すべての著者名とタイトルとあらすじを言えるようにしておけよ、と言いましたら、「大丈夫です」と。試験会場では全部答えられたそうで、面接官はクビをひねっていたそうです(笑)。それだけの裏打ちがある生徒なら、きっと大学も学生に迎えたいと思うはずです。
――きちんと本を読ませることは大切です。