「心の旅」としてのキャリア教育

本
上智大に挑んだ女子生徒が8月から10月までに読んだ本 画像提供:水野次郎氏

水野 松戸国際高校校長の時、校長室は進路指導室を兼ねていたので、多い年など30人から40人の生徒が出入りしていました。しかし、生徒の実体験だけでは、時間とおカネに限界があります。

 建築家の安藤忠雄さんが「本を読むことも世界を広げる『心の旅』なのです」というように、生徒には漠然とした目標であっても、自分の“心の旅”をきちんとしてほしい。この分野に進みたいなら、最低この本を読みなさいという読書指導をして、読後の対話を生徒と重ねました。生徒によっては、渡したはなから「もう読みました」と、週に何回も訪れてくる子もいました。

森上展安 森上教育研究所代表
[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす)
森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、88年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――校長がキャリア教育を支援していたわけですね。

水野 8月に校長室に来て、「上智大の総合グローバル学部を受けたい」という女子生徒がいました。学力的には相当ハードルが高かった。課題論文のテーマは次のようなものでした。

グローバルイシュー(地球規模問題)を一つ取り上げ、それがどのような問題なのか説明した上、その理解と解決のためにグローバルな視点とローカルな視点がどのように重要であるかを、具体例を挙げながら述べなさい。

 とりあえず2000字の論文を書くよう言いましたところ、その生徒は500~600字書いて「先生、これで限界です」と悲鳴を上げてきました。これでは選抜は通らんぞ、ということで、そこから読書指導を始めるのです。ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センとか、政治学者イアン・ブレマーとかの著作を薦めました。その生徒は、10月までの2か月間に12冊を次々と読んでいきました。

 すべての著者名とタイトルとあらすじを言えるようにしておけよ、と言いましたら、「大丈夫です」と。試験会場では全部答えられたそうで、面接官はクビをひねっていたそうです(笑)。それだけの裏打ちがある生徒なら、きっと大学も学生に迎えたいと思うはずです。

――きちんと本を読ませることは大切です。