最も費用対効果が高い子どもへの投資とは何か?
――選択と集中の議論にも通じますね。
中室 それに私たちの社会は今、急速に人口が減っていて、特に生産年齢人口(15~64歳)については向こう30年で20%も減少するといわれています。図表2のように都道府県別に示されたデータもあります。つまり今後、あらゆる職場で5人に1人の働き手がいなくなるわけで、これでは従来の公共サービスを維持することは不可能です。


――そのための判断材料としても、やはりエビデンスの活用が重要です。
中室 ただし、エビデンスを信用し過ぎるのも考えものです。何らかのエビデンスに触れたときには、あくまで合理的な判断をサポートする“補助線”と理解するべきでしょう。また、エビデンスは絶対に覆らないものではなく、むしろ近年の科学は「再現性の危機」と呼ばれる深刻な問題に直面しています。なにしろあの『ネイチャー』誌に論文を寄稿したことのある科学者のうち、実に7割超が過去の実験の再現に失敗した経験を持っているのです。さらに、海外で得られたエビデンスがそのまま日本に当てはまるとは限らないことは言わずもがなでしょう。
それでも、過去50年にわたる米国での133の公共施策を評価した論文によれば、子どもの教育と健康への投資は、最も費用対効果が高いとされています。わが子の将来のため、この国の未来のために、一人一人が教育と真摯に向き合っていくことが大切です。
※次回「 知らないと損する?高校進学費用のサポート幅が大幅に拡充!」は9月24日公開です。

中室牧子(なかむろ・まきこ)
慶應義塾大学総合政策学部教授。慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学大学院でMPA、Ph D(教育経済学)を取得。日本銀行等を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート、経済産業省ファカルティフェローを兼任。政府のデジタル行財政会議等で有識者委員を務める。日本学術会議会員(第26期)。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『科学的根拠で子育てーー教育経済学の最前線』、共著に『「原因と結果」の経済学』(共にダイヤモンド社)などがある。

『科学的根拠 (エビデンス)で子育て ――教育経済学の最前線』 ダイヤモンド社
わが子の“将来の収入”を上げるには? 国内外のさまざまなエビデンスを検証し、社会に出てから役立つ教育とは何かを問うた一冊。