中国の電機メーカーの最終面接にのぞむため、成田空港に現れた元大手電機メーカー技術者のAさん。国内での再就職は厳しいため、やむを得ず中国へ向かうことを決心したという。

 10月下旬、早朝の成田空港。追跡チームは、旅立つ1人の人物を追っていた。元大手電機メーカーの技術者Aさん、51歳。行く先は中国だ。

 商品企画の部長をしていたAさんは、去年早期退職に応じて会社を辞めた。これから中国の電機メーカーの最終面接にのぞむという。

「当然、日本の中で仕事が見つかれば選択します。しかし、離職から1年経ち、いろいろ企業面接を受けさせていただいたが、ノーというケースが多かった…」

 やむを得ず中国へ向かうことを決心したというAさん。このあと厳しい現実に直面することになる。

 海の向こう中国に活躍の場を求めざるを得ない技術者たち。その先に何が待ち受けているのか、追跡が始まった。

日本メーカーのリストラが
中国の格好のチャンスに

中国家電メーカー「ハイアール」の新製品・ドラム式洗濯乾燥機。「日本人が開発した」ことをセールスポイントに、高品質をアピールしている。

 海を渡った日本人が開発した家電製品が売り出される――。追跡チームは東京・台東区にある中国家電メーカー「ハイアール」の日本の販売拠点を訪ねた。目にしたのは日本の年末商戦を見据えた新製品・ドラム式洗濯乾燥機。設計、開発、デザインに至るまで、担当したのはハイアールに雇われる日本人だ。

 回転するドラムの振動を大幅に低減する新たな「バランサー」は世界初の技術、日本ではまだ実用化されていない。ハイアールは、この洗濯機が「日本人によって開発された」ということをセールスポイントに、品質の高さをアピールし、日本での売上げの拡大を狙っている。

 では、中国メーカーで活躍する日本人技術者とはどんな人たちなのか。追跡チームは、労働組合の関係者や人材紹介会社などを徹底調査。ある事実が明らかになった。

 リーマンショック、円高の影響を受け、去年以降日本の大手電機メーカーの多くが、正社員の大規模な早期退職に踏み切っていた。その数は合計1万人以上にのぼる。対象にしているのは、半導体や薄型テレビ、白物家電など、国際競争に敗れた部門の技術者たち。中国企業はその人材に狙いを定めていたのだ。追跡チームは、あのハイアールの求人票も入手した。

「冷蔵庫、エアコンなど家庭で使う、いわゆる白物家電の開発者がほしい」
 「商品企画やデザインに精通した人はいないか?」

 日本メーカーのリストラを“技術者獲得のチャンス”ととらえる中国。そんな構図が浮かび上がってきた。

中国・青島(チンタオ)にあるハイアール本社。「急成長の秘密は、中国人の技術力が格段に上がったことにある」と広報担当者は語る。

現地で働く日本人を求めて、
突撃!ハイアール本社

 日本で行き場を失い、中国に職を求めた技術者はいま、どんな思いで働いているのか。追跡チームは中国・青島(チンタオ)にあるハイアール本社をめざした。