かつて日本企業で太陽電池事業を率いた業界のキーマンが、中国企業のブレーンとなり、日本市場に殴り込みをかける。

 現在、日本の太陽電池の市場は2009年度で4000億円弱と、世界有数の規模に膨れ上がっているといわれる。この市場を狙い、海外メーカーが参入してきている。たとえば、中国からはサンテックパワー、インリーソーラー、トリナ・ソーラー、カナダからカナディアン・ソーラーなど。このほか、韓国の現代、LGエレクトロニクスなどの参入も噂されている。

 これらのうちのひとつ、トリナ・ソーラー(高紀凡社長)の“教師役”を果たすのが、元京セラ役員でソーラーエネルギー事業のトップだった手塚博文氏(61)だ。現在は太陽電池の原料シリコンの製造やコンサルティングを行うソーラーシリコンテクノロジーの社長を務める手塚氏は、日本メーカーの太陽電池を知り尽くした人物。手塚氏をブレーンにトリナ・ソーラーは年明けにも本格販売する見込みである。

 手塚氏がパートナーを組むトリナ・ソーラーは、1997年の設立。当時は小さな新興メーカーに過ぎなかった。それに対し、シャープや京セラ、三洋電機など日本メーカーが高い技術力をほこって世界をリードしており、手塚氏も京セラで住宅用のみならず、アメリカに太陽電池を輸出して、発電事業で投資家に配当するビジネスなども手がけ、事業を引っ張っていたという。

 しかし2000年に京セラを退職した手塚氏は、一転して、中国や韓国の大学で教鞭をとる。その時に「電池の素人だった」という高社長と出会い、太陽電池のエキスパートとして知識を教え込んだ。

「教師と生徒」の関係が続くうち、いつしか日本メーカーは急激に世界シェアを落とし、気が付くと「生徒」が経営するトリナ・ソーラーは年間生産量 399メガワットと京セラにほぼ肩を並べていた(09年、PVニュース調べ)。そしてトリナ・ソーラーは日本市場を本格的に攻略するべく、再び「教師」として、手塚氏に白羽の矢を立てた。トリナ・ソーラーの日本での販売代理店として力を借りるという。

 日本の太陽光発電の市場は、9割が住宅向け。工場の屋根など非住宅向けが主流の諸外国の市場とは事情が違う。瓦屋根の日本家屋という特殊性、そして一般家庭が相手という実態から、安心感の高いブランドと流通網を持つ日本メーカーには一日の長がある。価格の安さを武器とする中国メーカーといえども、簡単には勝てないというのが定説である。

 トリナ・ソーラーが手塚氏の指導を仰ぐのは、まさにこうした事情からだ。手塚氏は「日本は住宅向けが多く、(欧米のように)砂漠に置くのとは訳が違う」と認めながらも、「近くコモディティ(汎用品)化して値段は一気に下がる。日本メーカーの商品はコストが高過ぎて、競争力がない」と断言。国内住宅用太陽電池の導入件数(09年は14万件超)のうち、2012年はシェア10%を獲得するという目標を掲げている。

 古巣だった日本メーカーがひしめく国内の太陽電池市場。家庭への普及率は現在2~3%と言われており、本格普及期はこれからだ。熾烈なシェア争いは、今後の普及に伴ってさらに過熱する見通しである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)