部下指導のひとつの考え方に、相手を「ほめる」ということがあります。「叱る」とは一見逆のことに思えますが、「叱る」と「ほめる」は、じつは基本的な考え方においては非常に近い存在だといえます。

 自動車を例に取ると分かりやすいのですが、アクセルは、スピードをあげるために重要ですが、それだけでは暴走したり追突してしまいます。また、ブレーキだけでも走ってくれません。その両方があってはじめて、自動車はその基本的な機能を果たすのです。

 管理職の指導方法についても、これと同じことがいえます。「ほめる」というアクセルだけでは部下は暴走してしまい、逆に、「叱る」というブレーキだけでは萎縮したり躊躇してしまい、能力を発揮できません。その両方を制御していくことが、管理職にとっての大切な役割なのです。

 そして、「ほめる」にせよ「叱る」にせよ、誰に対しても、あるいはどんなときでも同じアプローチをするということではなく、相手の置かれた状況や個性に応じて、ほめ方、叱り方を工夫していくことで、部下のやる気を引き出していく必要があります。

コーチングの考え方が効果的な「叱り」を生む

 効果的に叱るうえで大切なことは、人を活かし、人を育てるという考え方です。それを具体化する方法として、本書は「コーチング」の考え方を基本としていますが、ここで少し、コーチングの考え方をまとめておきましょう。効果的な「叱り方」をするうえで、重要な考え方ですので、ぜひ理解しておいてください。

 「コーチング」という概念は、1990年代のアメリカで大きなブームになり、企業経営の中でも、管理職にとってコーチング・スキルを身につけることが必須となってきました。日本でも、最近、「コーチング」という言葉が、さまざまなところで取り上げられるようになってきたようです。「コーチング」を漢字三文字であらわすと「信」「認」「任」に象徴されます。つまり、「人間の無限の可能性を信じる」「一人ひとりの多様な持ち味と成長を認める」「適材適所の業務・目標を任せる」ということです。