「モンスターハンター」や「バイオハザード」などのヒットタイトルで知られる、ゲームソフト大手のカプコンがネット上で騒がれている。引き金となったのは開発トップ、稲船敬二常務執行役員の退職騒動だ。稲船氏は退職に至った経緯や心境などをブログ等で綴る一方で(現在はすべて閉鎖)、カプコン側は10月末に開催された決算説明会以降、沈黙を守っている。業界内に困惑だけが広がった辞職騒動の背景を追う。

 カプコン常務執行役員の稲船敬二氏が退職する旨を自身のブログで発表したのは10月29日。退職を発表した後も稲船氏自身による発信やマスコミのインタビュー記事が出続けたこともあって、業界内の動揺が続いていた。たとえば、稲船氏自身が一度も会ったことがないという下請け関係者が実名で、カプコン子会社の話をツイッターに書き込むなど、情報社会ならではの“二次騒動”も発生したほどだ。

 今回の稲船氏の退職騒動から透けて見える問題点は、主にふたつ挙げられる。ひとつは10億円単位の開発費をかけて重厚長大なソフトを作っても回収できない時代において、リスクを省みず海外での急拡大を強く志向する稲船氏と意見が相違したこと。そして、サラリーマン開発者ならではの権力抗争があることである。今回はおもにこの二点に絞って、芝浦工大の小山友介准教授と一緒に考えてみたい。

海外進出の旗手だった稲船氏退職は、
日本のソフトメーカーにとっての“踏み絵”?

 稲船氏が執行役員に就任したのが2006年。その後、常務執行役員となった稲船氏の活動の軌跡は、カプコンの海外進出の過程でもあった。そのひとつが、2006年に稲船氏が制作総指揮をした、2本のマイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox 360」用ソフトの成功だ。

 この2本は、「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(150万本)と「デッドライジング」(160万本)で、欧米市場を中心に売れた。結果、両方ともミリオンセラーを達成し、Xbox 360の市場形成に貢献している。その勢いで「ロスト プラネット」は映画化も決まり、来年2011年にはワーナーブラザーズ配給で公開される予定だ。この2本のミリオンセラーソフトが誕生したことで、カプコンは海外進出に弾みをつけていった。