「なぜこの作業をしているのかわからない…」現場を迷子にさせない「KPI」の正しい設計法価値から行動への橋渡しとなるKPIの設計・運用術とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

プロダクトの価値の本質を捉える新たな評価軸「NSM(北極星指標)」。NSMを現場の行動に落とし込むには、どのように指標を設計し運用すればよいのか。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、価値から行動への橋渡しとなるKPIの設計・運用術を解説する。

目的地を目指すための「行動の地図」
KPIはどう設計すべきか

 プロダクト開発において「何を目指すのか」をチーム全員で共有することは、成功のための第一歩です。その共通言語として注目されているのが、NSM(North Star Metric:北極星指標)です。この指標は、あるプロダクトがユーザーにどのような価値を提供しているかを表すたった1つの指標であり、チームの「価値のコンパス」として機能します。前回の記事では、このNSMを設定する意義や、どのように選ぶべきかについてお伝えしました。

 しかし、コンパスだけでは目的地にはたどり着けません。進むべき方向は示されていても、どの道を通り、どのようなステップを踏めばいいのかが見えなければ、チームの足は止まってしまいます。

 ここで必要になるのが、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)という「行動の地図」を描く視点です。具体的な施策や日々の行動に直結するKPIは、単なる目標管理の道具ではなく、「どのような行動が価値につながるのか」を示す行動のトリガーとして設計されるべきものです。KPIを適切に設計すれば、チームは上司の指示を待たずに自律的に動けるようになります。逆に、KPIの設計がずれていると、努力の方向が価値創出から逸れてしまい、「なぜこの作業をしているのか分からない」といったモヤモヤがチームに生まれます。

 今回は、価値から行動への橋渡しとなるKPIをどのように設計し、組織の中で運用していくべきか、具体例やベストプラクティスを交えながら解説していきます。