北朝鮮軍による韓国・大延坪島(テヨンピョンド)への砲撃を受け、米韓両軍が11月28日、朝鮮半島西側の黄海上で合同軍事演習を始めるなど、朝鮮半島の緊張が一気に高まっている。「北朝鮮の急変事態に備えよ」と数年前から警告してきた紛争予防研究の第一人者、ポール・スターレス博士に話を聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト、矢部武)

――北朝鮮軍による韓国砲撃事件をきっかけに、朝鮮半島情勢が一気に緊迫化している。米韓は、北朝鮮の後ろ盾である中国の反発を承知で、中国の裏庭ともいえる黄海上で11月28日、合同軍事演習を始めた(12月1日まで実施予定)。緊張がこれまどまで高まるのを覚悟して、北朝鮮がこのタイミングで軍事的挑発に打って出た本当の狙いは何か。

ポール・スターレス(Paul B. Stares)
米外交問題評議会(CFR)のシニアフェローで、紛争予防担当部長。冷戦後の国際紛争、国家安全保障、紛争予防などの研究の第一人者。オルブライト元国務長官率いる大量殺戮防止タスクフォースや、イーストウェスト研究所の予防外交国際研究チームのメンバーを務める。日本国際問題研究所などの主任研究員として滞日経験もある。 2009年1月に発表した報告書「北朝鮮の急変事態に備えよ(Preparing for Sudden Change in North Korea)」は、大きな反響を呼んだ。

 いくつか考えられるが、まずは経済制裁を和らげるための圧力をかけようとしたのではないか。北朝鮮に対する各国の経済制裁はとくに韓国哨戒艦沈没事件(2010年3月)以降強化され、かなり効いている。

 韓国や国際社会との緊張を高め、挑発行動をやめる見返りに経済制裁を解除させようとした可能性はある。

 他国との緊張を意図的に高めて譲歩を引き出し、交渉を有利に運ぼうとするのは北朝鮮のいつものパターンだ。緊張が高まれば高まるほど他国は危機管理のための外交政策を取ることが多いため、この手法は北朝鮮に有効に働いてきた。しかし、今回はうまくいくかどうか疑問だ。

 2つ目は権力継承プロセスとの関連である。2010年9月、金正日総書記の三男の正恩氏が後継者として選ばれ、一連の国家的・軍事的行事に出席した。若い後継者の神話作りや権威づけ、後継体制の基盤固めなどのために韓国への攻撃が行なわれた可能性もある。実際、複数の報道によって、砲撃の数日前に金正日総書記と正恩氏が一緒に砲兵隊の近くを視察したことがわかっている。

 政務・軍務などの実務経験がほとんどない正恩氏に、危機的状況でも軍隊をきちんと統率して対応できるという実績作りをしたかったのではないか。正恩氏は強いリーダーであり、従来の北朝鮮の強硬路線を継承していくことを国民に示したかったのであろう。

――これをきっかけに、大規模な軍事衝突に発展する可能性はあると思うか。