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「原因と結果」の経済学
【第1回】 2016年9月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
中室牧子,津川友介

「相関関係」と「因果関係」の違いを理解すれば
根拠のない通説にだまされなくなる!

「●●教育法によって、東京大学に合格!」
「■■を飲んだら、がんが治った!」

巷では、このように、ある教育・医療の効果を喧伝する本を見かけることが多い。
しかし、慶應義塾大学の中室牧子氏およびハーバード大学の津川友介氏によると、これらの本の内容を鵜呑みにしても、子どもが東京大学に合格したり、がんが治るとは限らない。

なぜなら、「●●教育法で育てる」ことと「東京大学に合格する」ことのあいだ、あるいは「■■を飲む」ことと「がんが治る」ことにあいだには、「因果関係」があることが証明されておらず、「相関関係」しかないからだという。

これはどういうことだろうか。

「相関関係」と「因果関係」は
まったくの別物である

 学力が高い子どもは、体力があるという場合が多いらしい。
図表1を見てほしい。学力テストと体力テストの都道府県別平均値を散布図で表したものだ。子どもの学力テストの点数が高い都道府県では、体力テストの点数も高いことがわかる。

 では、「子どもの学力が高いから、体力がある」と考えてよいのだろうか。つまり、子どもに体力をつけようと思ったら、まずは子どもの学力を上げるべきなのだろうか。

 残念ながらそうとは言えない。子どもの学力と体力の関係のように、「2つのことがらのあいだに一見関係があるように見える」状態を相関関係があるという。

 しかし、相関関係があることは、因果関係があることを意味しない。「2つのことがらのうち、どちらが原因で、どちらが結果かということが明らかである」状態を、因果関係があるという。この場合、学力が高いという「原因」によって、体力があるという「結果」がもたらされたのであれば、この関係は「因果関係」だといえる。

 このように整理してみれば、「学力が高いから、体力がある」というのは、どう考えてもおかしい。学力と体力の関係は、相関関係ではあっても、因果関係ではないと考えるのが自然だ。学力と体力の関係が因果関係でなければ、子どもの学力を上げても、体力がつくことはない。

 ここから得られる教訓は非常に重要だ。相関関係にすぎないものを因果関係と混同してしまうと、誤った判断のもとになってしまうのだ。子どもの学力と体力のような例であれば、間違える人は少ない。しかし、もう少しもっともらしい話になると、多くの人が根拠のない通説を信じ込んでしまっている。

健康診断を受ければ、健康になれるのか

 私たちは、学校や会社で健診(健康診断)を受けることも多い。定期的に人間ドックなどで健診を受けている人もいるかもしれない。健診の結果、生活指導を受けて、食事や運動の習慣を変えれば、糖尿病や高血圧などの病気の予防につながるかもしれない。だから、健診を受ければ健康になり長生きできるはず。多くの人がそう信じているはずだ。

 実際に、私たちにもなじみの深い「メタボ健診」(注1)を例に、健診と健康の関係をみてみよう。図表2のグラフは、メタボ健診と生活指導を受けた人と、生活指導を受けなかった人たちを比較したものだ。メタボだと診断され、生活指導を受けた人たちは、翌年、腹囲が小さくなり、体重が軽くなり、血糖や血圧も低くなっているように見える。

 一見すると、健診を受ければ、健康になれると言えそうだ。

 でもちょっと立ち止まって考えてほしい。このデータを根拠に、本当に健診を受けたから健康になったということができるのだろうか。

 ここで重要になってくるのは、健診と健康の関係は相関関係にすぎないのか、それとも因果関係なのか、ということだ。このデータは、こうも解釈することができる。「健康な人が健診を受けているだけ」(相関関係)で、「健診を受けたから健康になった」(因果関係)のではない、と。

 ではどうすれば、この2つのことがらの関係が相関関係にすぎないのか、あるいは因果関係なのかを知ることができるのだろうか。実は、データを正しく分析すれば、見極めることができる。

 有力な研究が示すところによると、健診と健康や長生きのあいだに因果関係はないことが示唆されている。このため、「私は毎年健診を受けているから大丈夫」などと考えるのは危険だ。

注1 メタボ健診とは2008年4月から肥満や高血圧などのメタボリック・シンドローム対策として開始された「特定健康診査・特定保健指導」のことである。この健診を受けた人の中で、メタボであると診断されると生活指導を受けることが推奨される。

因果関係が証明されてない通説を
信じるのはお金と時間の無駄である

 因果関係が存在しないことの何が問題なのか、と思う人もいるだろう。「因果関係が証明されてないからといって、健康診断自体が害になるわけではないだろう。大きなお世話だ」と考える人もいるかもしれない。

 しかし、私たちが何か行動を起こすときには、だいたいの場合、けっこうなお金や時間がかかるということを忘れてはならない。因果関係があるように見えるが、実はそうではない通説を信じて行動してしまうと、期待したような効果が得られないだけではなく、お金や時間まで無駄にしてしまう。それだけでなく、かえって悪影響を及ぼしたり、何ら害悪のない行為を否定することにもつながってしまうリスクもある。

 本当に因果関係が存在するのか。これを把握することができれば、こうした思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろう。因果関係を正しく把握するための方法論を「因果推論(Causal Inference)」と呼ぶ。

 相関関係を誤って因果関係であるかのように思い込んでしまうミスの原因となるような事象を丁寧に検証すれば、特別な知識を持っていなくても、誰にでも因果推論を行うことができるようになる。データをたくさん目にするようになった現代において、この因果推論に関するリテラシーは非常に重要である。

 その関係は、相関関係なのか、因果関係なのか。このことを体系的に考えるスキルを身に着けることができれば、「もっともらしいが、実は間違っている根拠のない通説」にだまされる可能性を減らすことができるのである。

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中室牧子(なかむろ・まきこ)

慶應義塾大学 総合政策学部 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行、東北大学を経て現職。コロンビア大学公共政策大学院にてMPA(公共政策学修士号)、コロンビア大学で教育経済学のPh.D.取得。専門は教育経済学。著書にビジネス書大賞2016準大賞を受賞し、発行部数30万部を突破した『「学力」の経済学 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 

 

津川友介(つがわ・ゆうすけ)

ハーバード公衆衛生大学院 リサーチアソシエイト
東北大学医学部卒業後、聖路加国際病院、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(ハーバード大学医学部付属病院)、世界銀行を経て現職。ハーバード公衆衛生大学院にてMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学 」で医療に関するエビデンスを発信している。


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