シリーズ累計30万部「骨ストレッチ」の創始者・松村卓氏と、骨ストレッチを長年にわたり実践し、2015年世界マスターズのリレーで金メダルを獲得したスプリンター、渡辺潤一氏の対談をお届けする。(聞き手/構成:長沼敬憲)

300キロの米俵を
ラクに持ち上げられる秘密

上原浩治がメジャーで成功した<br />理由は骨の使い方にあった!?所蔵:庄内米歴史資料館
拡大画像表示

渡辺潤一(以下、渡辺) 米俵を5俵背負った女性の写真が残っていますよね?最近、あれを見てトレーニングに対する考え方が変わってきたんです。

松村卓(以下、松村) 米俵は1俵60キロですから、5俵だと300キロ。「あんな小柄な女性が担げるわけがない」と思うのが常識だと思いますが、でも、写真の女性は実際に担いでいますね。

渡辺 松村さんは、その秘密が骨にあると捉えているわけですよね?

上原浩治がメジャーで成功した<br />理由は骨の使い方にあった!?松村卓(まつむら・たかし)
1968年生まれ。中京大学体育学部体育学科卒業。陸上短距離のスプリンターとして活躍。100mの最高タイムは10秒2(追風2.8m)。北海道国体7位、東日本実業団4位、全日本実業団6位などの実績を持つ。引退後、ケガが絶えなかった現役時代のトレーニング法を根底から見直し、筋肉ではなく骨の活用に重点を置いた「芯動骨整体(骨ストレッチ)」、体幹部を効果的に活用できる「骨ストレッチ・ランニング」「骨ストレッチ・ゴルフ」などを考案、多くのスポーツアスリートの指導にあたる。著書に、『ゆるめる力 骨ストレッチ』『やせる力 骨ストレッチ』(以上、文藝春秋)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(共著 甲野善紀 ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある

松村 ええ。骨身にまかせることができるかどうか。それが、立ったり、歩いたり、走ったり、ボールを投げたり、重い荷物を担いだり……すべての動作の基本であると、私は考えています。

渡辺 確かに、いくら筋力に頼っても持ち上げられる重さではないですからね。

松村 実際に300キロを担げるようになるかはわかりませんが、骨を意識した動きを身につけると、力ずくで頑張ってもどうにもならなかったことが可能になってくるんですよ。

渡辺 僕自身、5年前に骨ストレッチに出会って衝撃を受け、その意味を強く実感するようになりました。選手寿命がここまで延びたことにも(現在42歳)間違いなくつながっていると思います。
 骨ストレッチを実践することで、無理に筋力アップし、地面を思い切って蹴らなくても、効果的にスピードが出せることはわかってきました。いまはその発展形として、体にあえて負荷をかけた状況でそうした力みのない動きができるかどうかを追求しています。

――それで、ウエイトトレーニングを?

渡辺 ええ。筋力アップによって走力がアップすると考えるのが普通なのだと思いますが、そういう発想でやっているわけではありません。筋肉をつければ速くなると、単純には言えませんから。

松村 私もスプリンターだった現役時代にウエイトトレーニングはさんざんしてきましたが、頑張って続けても体が硬化するだけで、パフォーマンスはかえって低下していました。ここ一番でケガに悩まされていましたし、なぜだろうと自問してばかりしていました。
 ちょっと変わった発想かもしれませんが、もしウエイトトレーニングをやるなら、筋力アップを目的にせず、いまの体の状態でどの程度あげられるのか、確認の手段にするくらいがいいと思います。

渡辺 同感です。僕も骨を意識して動かせているかを確認するためにやっているだけなので、持ち上げるのはマックスで一回だけです。ウエイトトレーニングにしろ、走り込みにしろ、ただ一生懸命にやっていた若い頃とは、やっている内容は同じでも意味合いがまるで違ってきました。

松村 すばらしいですね。自分の体が先生であり、コーチですから、そうやって体の声を聞くことが大事なんです。

渡辺 松村さんに指導していただいた中で、一番大きかったのはその点ですね。おかげで考え方の根本が変わりました。

松村 他人が考えたデータや理論を信じるからおかしくなるんです。そのあたりは参考程度にして、あくまでも自分の感覚を大事にしないと。体の声を基準にしていけば間違いないんですよ。