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ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
【第31回】 2016年11月2日
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原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

青年は希望に幻影を持ち、老人は思い出に幻影を持つ。【『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』試読版 第22回】

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17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてゴールデンウィークの最終日、ニーチェは「お前を超人にするため」と言い出し、キルケゴールを紹介してくれます。
そのキルケゴールは、「憂愁とは何か」、アリサに教えてくれるのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第22回めです。

えっ、なんでわかるんですか。たしかに黄昏れていました……

 自分の人生ではなく、他人の人生を妬むことに時間を費やしてしまっている。情熱をもって生きないと、自分の人生は妬みに支配されてしまう――。

 いままで自分の人生のために、時間をフル活用して生きてきた、とは胸を張って言えない自分がいることに、私は気づいた。人生の時間はいくらでもあるように思えていたが、刻一刻と、時間は過ぎていっているのだ。

 私にとって、情熱を燃やせる生き方とは何か?を持たないまま、ただ時は残酷に減っていくばかりである。

 「キルケゴールさん、なんかいろいろ教えてくれてありがとうございます」

 「いえいえ、ところで、いまアリサさん“人生って思っているよりも短いんだな”と黄昏れていませんでした?」

 「えっ、なんでわかるんですか。たしかに黄昏れていました……」

 「フフッ。それが憂愁ですよ。僕はそういう切ない気持ちに浸ることが好きなんです。『青年は希望に幻影を持ち、老人は思い出に幻影を持つ』。何歳になっても人は黄昏れてしまうのかもしれません」

 なるほど、これが憂愁か。たしかに憂愁に浸ると、世界が、いま生きているこの瞬間が、美しいもののように思えてくるのも、納得だ。

 「あ、そろそろ時間だ。僕次の予定があるから、もう行かなきゃ。すいませーん、お会計お願いします!」

 「あ、すいません、いくらでしたか?」

 「ああ、大丈夫だよ。ここは僕が支払います」

 「えっ、でも……」

 財布を出しかけたところでニーチェが、

 「問題はない。キルケゴール君は、お坊ちゃんなのだ」

 そう言って深く頷いたので、私は「ごちそうさまです」と何度かお辞儀をして店を出た。

 店の外に出ると、蒸し暑さはまだ残るものの、昼間の熱気は薄れていた。
キルケゴールは「Farvel、ニーチェ、アリサ!」と言ってまた繁華街の方に去っていった。

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原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会います。哲学のことを何も知らないアリサでしたが、その日をさかいに不思議なことが起こり始めます。キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガーなど、哲学の偉人たちが続々と現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていきます。本連載では、話題の小説の中身を試読版としてご紹介します。

 

「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」

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