闇株新聞[2018年]

米通信大手AT&Tがタイムワーナーを買収、
世界の総合メディア企業は「新戦国時代」に突入か!?
闇株新聞が見通す、日本にはない総合通信・メディア産業の今後

2016年10月28日公開(2022年3月29日更新)
闇株新聞編集部
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

10月21日(米国時間)に「米通信大手AT&Tが総合メディア大手タイムワーナーを買収する方向で調整入り」との報道があり、翌日にはもう「買収に合意」と伝えられました。買収総額854億ドル、日本円にして約8兆9000億円。まさに電光石火の巨大買収劇です。日本では「大手通信会社と大手メディア企業の買収合併」と報道されていますが、それだけではこの買収がどれだけの意味を持つ「事件」なのかがまるで伝わってきません。経済のプロも愛読しネタ元にしている刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が、深く・濃く・熱く解説します!
 

 AT&Tは全米最大最強の通信会社、タイムワーナーはCNNやワーナーブラザーズを傘下に持つ総合メディアグループの一角です。今回はAT&Tがタイムワーナーを買収を仕掛け、あっという間に話をまとめてしまいましたが、単に巨大企業同士だから凄いというものではありません。

 通信業界とメディア業界は長い年月をかけ合従連衡を繰り返しながら、現在の勢力図にまとまりました。ここ数年でも幾つかの大型買収がありましたが、今回の買収は通信業界の勝ち組がメディア業界の勝ち組を呑み込む、まさに地殻変動級のインパクトがあります。これが業界の垣根を超えた巨大再編の幕開けになる可能性も十分にあります。

切り捨てられた地域通信会社が下剋上
時価総額23.5兆円の米最強通信会社

 ここでAT&Tとタイムワーナーが、それぞれどういう背景を持つ企業なのか、簡単に見て行きたいと思います。まずはAT&Tからです。

 現在のAT&Tは、1877年にグラハム・ベルが設立したAT&T(以下、旧AT&T)とは別の会社です。米国最大最強の独占企業だった旧AT&Tは巨大になり過ぎて、独占禁止法に抵触したこともあり、1984年に地域電話会社7社を分離しました。「地域電話会社は最も成長性がない」と判断したためですが、これは旧経営陣の“世紀の判断ミス”でした。

 地域電話会社を切り離した旧AT&Tは長距離電話/国際電話/研究開発/通信機器製造販売/コンピュータの各事業を残し、CATV(ケーブルテレビ)会社を巨額買収するなどしましたが、結局すべてがジリ貧になってしまいました。

 一方、分離された7社の地域電話会社の中で、東海岸のベルアトランティック(現ベライゾン)とテキサス州のサウスウエスタンベル(のちのSBCコミュニケーションズ)が競争を勝ち残り他の地域電話会社を合併、長距離電話/国際電話事業にも進出して旧AT&Tのシェアを削っていきます。そしてSBCコミュニケーションズがすっかり落ち目となった旧AT&Tをわずか160億ドルで買収した上で、AT&Tの社名を引き継ぎました。これが、現在のAT&Tです。

 現在でも米国最大の通信会社で最大の勝ち組とは、このAT&Tとベライゾンの「2強」を指します。通信会社としての規模はベライゾンの方が少し大きいようですが、時価総額ではAT&Tが2263億ドル(23.5兆円)、ベライゾンが1916億ドル(19.9兆円)と、AT&Tの方がかなり大きくなっています。

米メディア業界は激しい買収合戦を経て
5大総合メディアグループにまとまった

 それでは、買収される側のタイムワーナーについても見てみましょう。米国の総合メディア業界は、ウォルトディズニー、コムキャスト、タイムワーナー、ニューズコーポレーション、バイアコムの5社が様々なメディアを傘下に収めて5グループを形成しています。

 

 

参考記事:「時価総額7000億円と目されたUSJ再上場をゴールドマンサックスが半額で譲った理由」(2015年10月5日公開)                                         表中の時価総額は参考記事執筆時のもので、現在とは異なっています。

 

 総合メディアグループの中で「さらなる勝ち組」を選ぶと、コムキャスト(先週末の時価総額が1531億ドル=15.9兆円)とウォルトディズニー(同1495億ドル=15.5兆円)が「2強」で、その次がタイムワーナー(今回854億ドルで買収される)とニューズコーポレーションとなります。

 ただタイムワーナーは全米第2位(1位はコムキャスト)のCATVであるターナーケーブルを別会社として上場させており(先週末の時価総額は596億ドル=6.2兆円)、次はこちらの行方が注目されます。

通信の勝ち組がメディア業界に進出
ついにAT&Tが「本丸ごと」呑み込んだ!

 AT&Tは総合メディアグループではありませんが、2014年5月に衛星放送のディレクTVを485億ドル(なんと5兆円!)で買収しています。超優良コンテンツであるNFLの一部放映権を有しているとはいえ、どう考えても高い買い物でした。今回買収するタイムワーナーの傘下にあるHBO(ペイテレビ)の方が有望です。

 それに対してAT&Tのライバルであるベライゾンは2015年5月にAOLを44億ドル(4620億円)で買収してメディア事業に進出しています。AOLは「ハフィントンポスト」など特色あるメディアを傘下に持ちネット広告にも強みのある存在感のある会社です。あるいは今年7月には米ヤフーのネット事業を48億ドル(5000億円)で買収するなど、さらにメディア事業を拡大していく姿勢を見せています。

 これまでは有力なメディアや媒体を巡って主に総合メディアグループが激しい争奪戦を繰り広げてきたわけですが、去年辺りから通信会社の勝ち組が「参戦」し、今回はついに総合メディアグループを「本丸ごと」呑み込んてしまったというわけです。こうなると、通信と総合メディアの垣根は一段と低くなり、今後はAT&T、ベライゾン、コムキャスト、ウォルトディズニーあたりを4強とする「新戦国時代」に突入していく予感がします。

 翻って日本では、テレビ局などメディア会社はありますが「総合メディア企業」は未だなく、通信企業は携帯電話事業を中心に規制に守られた寡占による高収益体制を守ることしか考えていません。米国のような通信企業と総合メディアの融合などは、その組み合わせすら思いつきません。

 それでは、テレビにせよ新聞社にせよ単独で将来性のある企業があるのかと言えば、これも絶望的になってきます。メディアの衰退と、規制と寡占に胡坐をかいて技術革新を忘れた通信インフラは、そのまま国家の衰退につながってしまうでしょう。日本の通信会社やメディア会社の株価を考えるとき、こういうダイナミックな世界の潮流に少しでも接点があるかを考えてみるべきなのかもしれません。

本連載は金融・経済のプロも愛読し”ネタ元”にしていると評判の刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』で配信された記事から、一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガにご登録いただくと、政治経済や金融の話題を中心に、歴史文化や娯楽まで他のメディアでは決して読めない、濃くて深くてためになる記事が、毎週1回5本程度の本編と付録、番外編、速達便がお読みいただけます。日々のニュースを読み解くセカンドオピニオンとしてご活用いただければ幸甚です。

 


作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら
闇株新聞PREMIUM

闇株新聞PREMIUM
【発行周期】 毎週月曜日・ほか随時  【価格】 2,552円/月(税込)
闇株新聞PREMIUM 闇株新聞
週刊「闇株新聞」よりもさらに濃密な見解を毎週月曜日にお届けします。ニュースでは教えてくれない世界経済の見解、世間を騒がせている事件の裏側など闇株新聞にしか書けないネタが満載。
お試しはコチラ

 

DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)

●DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)とは?

金融・経済・ビジネス・投資に役立つタイムリーかつ有益な情報からブログに書けないディープな話まで、多彩な執筆陣がお届けする有料メールマガジンサービス。
初めての方は、購読後20日間無料! 


世の中の仕組みと人生のデザイン
【発行周期】 隔週木曜日  【価格】 864円/月(税込)
世の中の仕組みと人生のデザイン 橘 玲
金融、資産運用などに詳しい作家・橘玲氏が金融市場を含めた「世の中の仕組み」の中で、いかに楽しく(賢く)生きるか(人生のデザイン)をメルマガで伝えます。
お試しはコチラ

堀江 貴文のブログでは言えない話
【発行周期】 毎週月曜日、水曜、ほか随時  【価格】 864円/月(税込)
堀江 貴文のブログでは言えない話 堀江 貴文
巷ではホリエモンなんて呼ばれています。無料の媒体では書けない、とっておきの情報を書いていこうと思っています。メルマガ内公開で質問にも答えます。
お試しはコチラ

 


今日の注目株&相場見通し!!
【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2021年の最強クレジットカード(全8部門)を公開! 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

配当&株価が10倍株!
NISA投信グランプリ
ふるさと納税

6月号4月19日発売
定価780円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[配当&株価が10倍になる株!]
◎第1特集
配当&株価が10倍になる株!
10年持ちっぱなしで「配当が10倍」になる株や「株価10倍」になる大型優良株を発掘
・誰もが知ってる大型株・優良株で実現
・新興国に進出/AI・半導体/
高齢化・人手不足/環境・EV
・番外編:1年で株価2倍になる株


◎第2特集
ダイヤモンド・ザイ
NISA投信グランプリ2024

2回を迎える、投資信託のアワードを発表!
NISAの投信選びや保有投信のチェックに最適

・NISAで運用できる投資信託のみが対象
・個人投資家が選びやすいよう、本数は30本のみ!
・個人投資家がわかりやすい部門で表彰


◎第3特集
ふるさと納税 日本3大グルメ&生産地
返礼品60 

日本3大和牛、3大地鶏、といったブランド食品や、日本3景、3名泉のベストグルメ、大注目の魚介、フルーツの3大産地の返礼品などを紹介

◎第4特集
FXで1億円!
年億稼ぐトレーダーの「神トレ」大公開!

ドル/円が34年ぶりの安値更新など、活況の為替市場。
FX界隈では、1年で「億」を稼ぐ「年億」の個人投資家が続々誕生しています。その手法を、わかりやすくお届け


◎【別冊付録】

いつまでたっても始められない人に贈る
新NISA「超ラク」スタートBOOK
完ペキさを求めてなかなか始められないより、「ラク」に「早く」始めたほうが、結果的にオトク
なかなか始められない人向け、ぐうたら指南書


◆出遅れJリートに投資チャンス! 利回り4~5%台投資判断&オススメJリート 
◆おカネの本音:渋澤 健さん
◆10倍株を探せ! IPO株研究所
◆マンガ恋する株式相場「コンビニがGAFAの一角に!?」
◆マンガ「昭和のボロ空き家はそのまま貸せばいい!?」
◆人気毎月分配型投信100本の「分配金」速報データ!


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!



「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

【法人カード・オブ・ザ・イヤー2023】 クレジットカードの専門家が選んだ 2023年おすすめ「法人カード」を発表! 「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報