→答えは、中古車販売店「ガリバー」がロードサイドではなく<br />ショッピングモールの出店で成功したわけは?拡大画像表示 です。 

重ねる技術:
当事者も気づいていない問題を観察する

 日常の業務を繰り返すだけだと、考え方が凝り固まってしまいます。そうすると、顧客の不満にすら気づけなくなってしまうのです。

 たとえば、「freee」というクラウド会計ソフトは、2013年のリリースからわずか3年で、60万以上の事業所に導入、クラウド会計ソフト業界のシェアNo.1になっています。freee代表取締役の佐々木大輔氏は、もともとgoogleで働いており、経理とは無縁でした。

 スタートアップのCFOだったときにとある姿を目撃し、衝撃を受けたといいます。それは隣に座っていた経理担当が一日中入力作業を続けている姿です。経理担当にとって、ひたすら入力するのは当たり前ですが、google出身の佐々木氏から見ると入力を自動化して、もっとファイナンスの分析など知的労働に時間を使ってほしいという思いが湧き起こったのです。

 当事者にとっては当たり前になりすぎているけど、大きなゆがみがある部分を発見するためには外側から眺めることが重要となります。

企業の強み・思い:
多くの人に移動を通じた体験を楽しんでもらいたい

 中古車販売店というと、道路沿いに中古車がたくさん並んでいる店舗を思い浮かべる人が多いと思います。これまではロードサイドに中古車を展示して、来客を待つスタンスが一般的だった中古車業界です。しかし、若者を中心とした自動車離れの影響で、販売は苦戦していました。そこで、ガリバーは新規顧客とのつながりを求めて、家族連れが多く来店するショッピングモールに店舗を出そうと考えたのです。

 ただ、そうは考えても、気軽に買い物を楽しむショッピングモールで、中古車が売れるイメージが湧かない。この難問を解くために、本プロジェクトにプロデューサーとして参画していた私は、ガリバー自身の本音を掘り下げました。そのなかで発見したのは、「車を売りたいのではなく、適正な価格で車を流通させることで、多くの人に移動を通じた体験を楽しんでもらいたい」という思いでした。

生活者の本音:
週末のおでかけプランを考える余裕なんてない

 休日のお父さんにとって、ショッピングモールは最も手近な「家族サービス」の手段です。本当はいろいろなところに出かけたいし、家族を連れていきたい。でも、平日が忙しいお父さんには、その場所やアクティビティについて、調べる暇もプランを立てる余裕もありません。結果、子どもが楽しめて、奥さんも買い物ができるショッピングモールに行っているという家族が多かったのです。

重なりの発見:
中古車を売るのではなく、近場で行けるおでかけ情報を提供した

 ガリバーも、「自動車を展示する」という従来通りの店舗づくりでは、毎週末軽い気分でショッピングモールに訪れる家族連れが入りたいと思える店舗をつくれないことはわかっていました。

 そこで、ショッピングモールに来る家族連れの本当の気持ちを探ることにしました。「ショッピングモールに来る人のニーズは?」と聞かれたら、「買い物がしたい」と答える人が多いかもしれません。

 行ってみるとわかりますが、ランチの後はこれといった予定もなく、ただ歩き回っている家族連れの姿がありました。ところが実際の現場で声を聞いてみると、印象とは異なる意見が聞こえてきます。「本当はショッピングモールに来たかったわけじゃないんだけど……」。そこには、「たまには子どもを連れて遠出したい」というお父さんの本音があったのです。

 そこで、このお父さんの本音に、ガリバーの「多くの人に移動を通じた体験を楽しんでもらいたい」というビジョンを重ねた店舗をプロデュースすることにしたのです。

 すると、単なる自動車展示場ではなく、おでかけ情報を提供する「おでかけが始まる場所」というコンセプトが生まれました。

 近場で数時間で行くことができるアクティビティプランを顧客のニーズに合わせて提案するコーナーは大人気。従来のロードサイド店舗を敬遠していたような家族が、ランチの後にお店を訪れるようになり、自動車の買い替え時期の数年前から、見込み客としての関係を構築できるようになりました。中古車の販売も好調。なんと、わずか1年で、全国のガリバー販売店で業績1位となり、同様の形態で4店舗を出店するまでになっています。 


参考文献
・Freeeについて ホームページ