女性への性的侮蔑発言で全米を震撼させたドナルド・トランプ。共和党エリートたちも次々と彼に背を向けた。だが、まだ最後まで「トランプ大統領」実現を切望するアメリカ市民たちがいる。彼らの原動力とは一体何なのか? 激戦地の1つ、中西部のミシガン州で大統領選の鍵を握る共和党「選挙人団」を直撃取材した。(取材・文・撮影/長野美穂、文中敬称略)

「最後までトランプを支持する」
大統領選の鍵握る配管サービス経営者

最後まで「トランプ大統領」実現を切望する、ミシガン州の選挙人を直撃!

 自動車産業の中心地、ミシガン州デトロイトから車で約6時間北に走ると、その街に着く。

 ミシガン州シャロボイ――。

 人口わずか2500人の湖畔のリゾート地に、大統領選の鍵を握る人物が住む。ジョン・ハガード、75歳がその人だ。

 ジョンは地元で配管サービスの会社を経営するビジネスオーナー。11歳で初めて銃に触って以来、ミシガンの大自然の中で狩猟の腕を磨いてきたハンターでもある。彼は、ミシガン州の「選挙人団」(electoral college)の1人なのだ。

 アメリカの大統領選は、国民の投票によってその結果が決まるが、厳密に言うと、直接選挙ではない。各州に割り当てられたelectorと呼ばれる選挙人が州民の投票結果を反映して、最終的に投票する。その総得票数で結果が決まる仕組みだ。

ジョン・ハガード。ミシガン州共和党選挙人団16人のうちの1人

 ミシガン州の選挙人団は、共和党と民主党それぞれが16人ずつ。「勝者全取り」のルールにより、州民投票の結果、もしトランプ候補が勝てば、16人の共和党選挙団が全員トランプに票を投じる。その16分の1の票を握るのがこのジョンだ。

 家庭のトイレや浴室の配管の詰まりを直したり、家全体の冷暖房装置を設置したりする彼のビジネスは、決して海外にアウトソースできない種類の「アメリカの仕事」だ。「Plumber」(配管工)という言葉は、米国ブルーカラー労働者の象徴でもあり、過去の大統領選でも何度も注目を浴びてきた。

 そんな地域密着型のビジネスに携わる彼が、なぜトランプを推すことになったのか。

「今週、トランプの新しいヤードサインがやっと入荷したんだ。今まで品薄だったから」

 そう言いながら、ジョンは庭の芝生に立てる青と赤のトランプサインを抱えて事務所に入ってきた。

「庭に立ててもいいんだけど、窓に貼るとより赤と青が目立つから、窓にたくさん貼ってほしいんだ」