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ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
【第33回】 2016年11月4日
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原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

自由のめまい?どことなく曲のタイトルみたいだね【『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』試読版 第24回】

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてゴールデンウィークの最終日、ニーチェは「お前を超人にするため」と言い出し、キルケゴールを紹介してくれます。
そのキルケゴールは、「自由のめまい」という聞きなれない言葉を口にしたのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第24回めです。

僕は時々“可能性がある”ということに不安を感じるんです

 「自由のめまい?」

 キルケゴールは聞きなれない言葉を口にした。

 「自由のめまい?どことなく曲のタイトルみたいだね」

 するとキルケゴールは静かに口を開く。

 「そうですね、自由って“可能性がある”ってことでもあるじゃないですか、僕は時々“可能性がある”ということに不安を感じるんです」

 「可能性に不安を感じる?」

 「はい、例えばいまから僕が、お店を出て道路に飛び出したとします。すると、車に轢かれて事故に遭っちゃいますよね」

 「うん、そうだね」

 「それが、僕が言っている可能性に不安を感じるということです」

 この人は一体何を言っているのだろう、余りにも極論すぎるキルケゴールの意見に私はあっけにとられてしまった。

 キルケゴールが何を言わんとしているのかまったく理解できなかった。

 「うーん、たしかにいまいきなり道路に出たら、轢かれるかもしれないけど、わざわざそんなことしないよね?」

 「はい、しません。僕が言っているのは“事故に遭うかもしれない確率が0.01パーセントでもあること”を不安に感じると言っているのではありません」

 「じゃあどういうこと?」

 「自分の行動によって、自分の人生が変えられることに対する不安です」

 「うーんそれって、素晴らしいことじゃないの?」

 「では、アリサさん考えてみてください。アリサさんの人生は、今後どうなっていくと思いますか?」

 私はしばらく考えこんだ。

 しかし、思い浮かんだ未来予想図には突拍子もない展開はなく、なんとなくこのまま時間が流れていった中で、起こりうるであろう、ごくごく平凡な情景が浮かぶだけであった。

 「ええっ、どうかな。まあ大学に進学して就職してしばらく働いて、誰かいい人がいれば結婚して子育てが落ち着いたらまた働いたりして、という感じかなあ。
 ごめんなさい、正直あまりちゃんと考えたことがないかも」

 「それがアリサさんにとって、自分らしい生き方?」

 「うーん、自分らしいかどうかと聞かれるとわかりませんが、だいたいこんな感じかなと思っています」

 「じゃあ、アリサさんは何のために生きていますか?」

 何のために生きているのか。

 先日も話題に出たが、考えたようで考えたことのない問題だ。

 もし私が生きていることに目的があるとするならば、幸せになるためである。

 しかし、自分にとっての幸せは何か?と聞かれたら毎日楽しく過ごすこと、後悔しないことくらいしか浮かばない。答えが見えていれば、楽なこともあるのだろうけれども、私には明確な目標とよべるものは何もなかった。

 「うーん漠然とだけど、幸せになるためとか?わからないです、流れに身をまかせていままで生きてきたから……」

 「アリサさん、僕たちは“何かをすることも出来るし、何もしないことも出来る”んです」

 「というと?」

 「僕たちはつねに自由なんです。自由だからこそ自分で何かをすることが出来る。そして逆をかえせば、自由だからこそ、何もせずにいることも出来るんです」

 「自由だからこそ、何もせずにいる?」

 「はい、例えば“何かを選択する”というと、何かを選んで行動することだと思いがちですが“何かを選択する”というのは、何かを選んで選択するだけではなく、何もしないという行動も選択出来るということです」

 「何もしないという選択、ですか」

 「そうです。例えば“仕事を辞められない”と嘆いている男性がいるとしますよね。彼は、辞められないのではなくて“辞めない”という選択をしているだけです」

 「どうしてですか?だって実際に辞められないかもしれないじゃん」

 「どうして“辞められない”のですか?」

 「例えば、上司からのプレッシャーとか、経済的な問題とか……」

 「それは“辞められない”のではなく、上司からのプレッシャーや経済的な問題を無視してまで“辞めたくない”という選択をしているのです」

 「いやけれど、現実問題、難しいこともあるじゃない」

 「じゃあ彼は“現実的な問題を最優先する”という選択をしているのです」

 「現実的な問題を最優先するという選択……」

 「そうです。人は自分で気づいていないかもしれませんが、つねに選択しながら生きているのです。
 そして何かを選択するということは、選択しなかった可能性もしくは、選択肢として思いつかなかった選択の可能性が生まれてきます」

(つづく)

原田まりる(はらだ・まりる)
作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター
1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある

 

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原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。

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「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」

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