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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

保守派の主張はむしろ日本を衰退させはしないか

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第144回】 2016年11月8日
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 政府は、天皇陛下が生前退位の意向を示唆されたことにより、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を設置した。同会議は、11月に専門家16人を招いて3回のヒアリングを実施し、それを参考に論点を整理して年明けに公表する方針としている。その上で、来春に提言をまとめる考えだ。

 有識者会議は、「皇室制度の様々な議論を一緒にやると時間がかかりすぎる」という理由で、「天皇の公務負担軽減」に絞って議論するようだ。皇室典範改正など抜本的な改革は行わず、「一代限りの特別法制定」で対応することが、安倍政権の敷いた「既定路線」であると見られている。だが、国民から圧倒的に支持された天皇陛下の「お言葉」は、公務負担軽減に絞って、一代限りの特別法で対応すれば解決というような単純なものではない。

「お言葉」は保守派への強いメッセージ(1)
「生前退位は今の憲法だからこそ可能」

 天皇陛下の「お言葉」については、様々な識者がコメントを出した。総じて、立場の違いを超えて「象徴天皇としてのご公務に万全を期したい」という陛下の強い責任感に「感銘した」というものが多かった。一方、「お言葉」の中身については、「退位の意向がにじむ表現」と指摘しながらも、「憲法の規定を踏まえて制度にかかわる具体的な文言を避けた」と論評したものが多かった。だが、筆者には、これらのコメントの数々が、陛下の「お言葉」に含まれた本当の意図を隠したかったと思われてならない。なぜなら、陛下は、憲法や制度について、非常に具体的に語っていたからである。

 天皇陛下の「お言葉」の内容は、「生前退位を認めてほしい」ということと、「護憲の立場」だということを発信した強い「政治的メッセージ」だったことは明らかだ。これは、普通になんの先入観も持たずに、陛下のお言葉のみを聞いた場合、よくわからないかもしれない。だが、事前に生前退位に慎重で、さらに憲法改正をしたいと考える安倍晋三首相や、その首相を支えているとされる、いわゆる「保守派」の日頃の主張をリストにして目の前に置いて、陛下の「お言葉」を聞くとよくわかってくる。

 具体的にいえば、「お言葉」の結論的な部分で、「今の憲法では天皇は国政に関する権能を有しない」ということを強調していた。これは、「天皇の生前退位を認めると権力争いなど政治的に利用される」という保守派の主張に対して、「今の憲法だからこそ政治的に利用されることはありえず、生前退位が可能だ」と反論していると解釈できるのだ。

 保守派の主張通り、天皇が「国家元首」となる改憲を行い、天皇が「政治的権能」を有するようになれば、生前退位は「天皇の政治利用」につながってしまう。しかし、象徴天皇制であれば、天皇は政治的権能を持たないのだから、天皇の退位を政治的に利用しようとしても、やりようがない。だから、「今の憲法の象徴天皇制を維持すれば、貴方がたが心配する天皇の政治的利用はないのだよ」と、陛下は保守派の主張を「護憲の立場」から論破しているのだ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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