NECが5期連続減収となる低空飛行を脱し、後れを取ったグローバル展開の巻き返しに動き出した。7年後には海外売上高を現在の3倍以上の2兆円(海外比率50%)にまで引き上げる。内向きの体質を打破し、縦割り組織の弊害を排除し、M&Aを成功させるために、2010年4月に就任した遠藤信博社長はいかなる旗を振るのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

 西村佑太氏(27歳)は、NECグローバルネットワーク事業部に所属するエンジニアである。入社2年目にして、アフリカ東部の赤道直下にあるケニアに送り込まれ、今年11月まで1年間勤務した。スワヒリ語は分厚い壁として立ちはだかり、システムの保守点検にしても、野生のワニがサーバの収納小屋へ紛れ込んだことで電気系統がダウンするという想像を絶するトラブルにも出くわした。

 公共・医療ソリューション事業本部の木村達氏(27歳)も、入社2年目でシンガポールに赴任、官公庁向け指紋認証システムの営業を担当した。上司からは「注文を1件取ってこい」と申し渡されたのみで、初日から営業の第一線へ放り出された。それでも、1年で2件の受注に成功した(受注金額2億円)。

 この2人は、ある特殊な研修の卒業生である。GTI(グローバル・トラック・トゥー・イノベーター)研修は、入社1年目の社員(2009年度は40人)から選抜、語学からビジネスマナーまで必須項目を半年間の缶詰め研修で学ばせ、1年程度、即戦力として海外へ送り込む制度だ。選抜条件は、語学力以上に、国際舞台の第一線で通用しうる度量、各種の素養が重視されている。

 狙いは当然、日本独特の商習慣に染まる前に海外志向を持たせ、グローバルに通用する人材を育てることにあるが、1年程度で帰国させるのは、彼らの帰任が旧態依然とした事業運営を続ける本社などの国内組織にグローバルの風を吹き込み、組織に揺らぎを与えることを期待しているからだ。

 図らずも、2人はこう言った。「シンガポールでは、ライバル企業の社員は英語も中国語も操る。優秀な彼らとの熾烈な競争、顧客とのギリギリの交渉、そういった緊張感が国内には欠如している」。

「海外では、明日までにお返事します、などと悠長なことは言っていられない」。新人社員がグローバルビジネスの常識を持ち込み、社内の危機を説く。そして、その構図自体が、NECのグローバル化の遅れを示している。