菅直人首相は、年頭の記者会見で、「社会保障の財源確保のため、消費税を含む税制改革を議論しなければならない」と述べ、6月までに方向性を示すと言明した。また、細川律夫厚生労働相は5日の記者会見で、年金制度改革について民主党マニフェストにこだわらない考えを示した。具体的には、全額税方式の最低保障年金という新年金制度創設の撤回を示唆した。

 これらは、これまで混迷を続けてきた社会保障と財政問題の本質がやっと把握され始めたことを示すものであり、歓迎したい。

「これまでの混迷」とは、つぎのようなことだ。

 第1に、社会保障の問題として、これまで、保険料記録問題や保険料未納問題がクローズアップされてきた。これらが重要な問題であるのは事実だが、仮にこれらが解決されたとしても、本質的で根源的な問題は残っている。したがって、それらに対処することが必要だ。

 第2に、財政については、「無駄の排除で財源が見いだされる」として、事業仕分けが脚光を浴びた。これは、無益であるばかりではない。それで財政問題が解決できるかのごとき幻想を振りまいたという意味で、有害なものだ。

 第3に、マニフェストの見直しは、当然のことである。最低保障年金を導入するなどという議論は、30年くらい前の議論である。年金が現在抱えている問題を解決しないばかりか、かえって悪化させる。

 これらすべては、問題の本質をまったく把握していない政治的パフォーマンスに過ぎない。「問題は何か、どの程度難しいものなのか」を認識するのが、第1歩だ。

消費税率を引き上げても、
問題の一部しか解決されない

 まず、「財政の問題とは、社会保障(なかんずく年金)の問題である」ということが認識される必要がある。仕分けで解決できるような無駄遣いの問題ではないのだ。財政問題とは、「国民生活の基幹にかかわる問題をどうすべきか」ということなのである。個人の立場から見ても、年金受給権がいまや多くの家計が持つ最大の資産である。問われているのは、これをどうするかということである。

 多くの人が、問題の焦点は消費税率の引き上げだと思っている。しかし、これは課題の一部でしかない。消費税率の引き上げが大変困難であるのは事実だが、消費税率を数パーセント引き上げただけでは、解決にはほど遠い。問題はもっと広く、もっと複雑で、もっと困難であることを認識する必要がある。