
東京ディズニーリゾートに57歳で入社し、65歳で退職するまで、私がすごした“夢の国”の「ありのまま」をお伝えしよう。楽しいこと、ハッピーなことばかりの仕事などない。それはほかのすべての仕事と同様、ディズニーキャストだってそうなのである。
※本稿は笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ、2022年2月1日発行)の一部を抜粋・編集したものです
某月某日 身の上話
キャストたちのいろいろな前職
50代のカストーディアルキャスト・白井さんはおしゃべりが好きで、レストルームのキャスト控え室*で一緒になるとひときわ話が盛りあがった。
あるとき、前職の話*になり、私がビール会社にいたことなどを伝えると、彼女自身の身の上話を聞かせてくれた。
「嫁ぎ先は徳島で、旦那の家は代々、染織を生業にしていたんです。でも、お姑さんがとても厳しくて。それでも20年以上連れ添ったんですけど、数年前とうとう我慢ができなくなって、夫と子どもを置いて、家を出て上京しちゃいました」
彼女とはよく話していたが、そんな経歴があったとはまったく知らなかった。
突然の告白の内容があまりにも赤裸々だったので驚いてしまった。とはいえ、彼女はいつもどおり悲壮感もなく、淡々と話している。
「それはたいへんだったね」と言うと、「家を出てしまったら、それまでうつうつとしていた気分がぱっと晴れて、ひとりになったのだから、もう好きなことがなんでもできるって切り替わったんです。それでディズニーが好きだったので、ディズニーランドで働けたらいいなと思って」
彼女は20年以上、染織業に従事したあと、一念発起して50代でディズニーキャストになっていたのだ。
「それじゃあ、お子さんは?」