働き方改革について、元マッキンゼーの採用・人材育成マネジャーだった伊賀泰代さんに聞く。2回目は、マッキンゼーの働き方について。「マッキンゼーは長時間労働」というイメージについて、率直に伺いました。
※第1回は
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私は毎年、有給休暇を100%消化していました

編集部(以下色文字):前回のインタビューで長時間労働が成果に結びつかないお話を伺いました。とはいえ、マッキンゼーも長時間労働の会社、というイメージがありますが。

伊賀泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント。兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにて、コンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年より独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。2012年に『採用基準』を出版、2016年11月26日に2冊目の著書『生産性』が発行される。

伊賀泰代(以下略):そうですね。イメージだけじゃなくて(笑)、一般的にコンサルティング会社はどこも長時間労働だと思います。少なくとも私の知るマッキンゼーは「9時-5時の会社」ではないし、夜中まで働いている人や、土日に会社に出ている人もいました。

 私自身はコンサルタントとして5年、そのあと12年間、採用と人材育成のマネジャーをやっていて、全体で17年間、在籍しました。いちばん大変だったのは入社1年目と、あとはマネジャーに昇格して2年たち、さらに上を目指せと言われ始めた頃ですね。コンサルタントのときは、相当忙しかったです。ただ、それでも有給休暇は毎年100%消化しています。

――それは伊賀さんが特別だったのでは?

 全員とは言いませんが、私が特別ということはないはずです。個人的な感覚では、大半の人が有休はとっていたと思います。新卒入社で非常識な若手なんて、有休の前借りを申請してくるぐらいですから(笑)。

 有休は年間で20日だったかな。平均的な日数だと思いますけど、私の場合、入社一年目にはその20日をすべて連続で取りました。すると1ヶ月まとめて休めるので、イスラエル、トルコ、それからエジプトまで回って・・・当時は平和だった中東をあちこち回りました。有休を一気につかってしまうので、その後は風邪をひいて休むなら病欠になります。

――そんな話を聞くとやっぱり伊賀さんが特別だったのではと思えてなりません。

 確かに全部まとめて取る人は多くないとは思いますが、マッキンゼーというのは長時間労働ではあるけれど、働き方に関する理不尽さみたいなものは少ないんです。たとえば、「自分の仕事は終わっているのに上司がいる間は帰れない」とか、「家族の記念日なのに会社の忘年会と重なったから、会社のイベントが優先」とか。そういうことがない。

 たとえば今日はものすごく疲れていて、ゆっくり休んで明日しっかり働いた方が高い成果が出せると思ったら、上司が夜中まで働いていようと若手がさっさと帰ってしまっても問題視されない。むしろそれくらい自分で判断して考えろって感じです。

 長い時間、働き続けて成果が上がる仕事でもないし、朝型なら朝、夜型なら夜、休日に静かなオフィスで集中したいなら休日にまとめて働く。あるパートナーは、土日はメールチェックも含めて一切仕事をしないと決めていたし、別の人は、むしろ土曜日の午後の誰もいない時間を一番集中して思考できる時間として活用していました。自分にとってもっとも生産性が高くなる働き方を自分で見つけなさいと言う感じです。

――とはいえ、マッキンゼーでは圧倒的な成果を出すことを求められますね。そうすると、成果が出せない人は、どうしても長時間労働になるのではないでしょうか。

 そうですね。そして「成果が出ていないからもっと長い時間、働かねば」と思い始めてしまったら、もはやその人がマッキンゼーで成功することはありえないんです。その発想自体が間違ってるわけですから、間違った方向にいくら努力しても正しい答えにはたどり着けない。

 人材育成マネジャーの私の役割とは、成果を出すための方法として「より長い時間働く」というのとは異なる、別の方法を指南することだったといってもいい。つまり、成果が出せなくて悩んでいる人に、生産性を高める支援をするのが仕事ということです。

――UP or Out で辞めていく人は、生産性が上げられなくて、必要な成果が出せないということでしょうか?

 成果が出せない時に、「成果が出せていないから、せめて頑張る姿勢だけでも示さないと」と考える人がいるんです。たとえば10の成果が求められているのに、スキルが足りなくて2しか出せていないとします。2というレベルの成果なら、その人は1日8時間働けば出せている。

 そういうときに、「どう働き方を変えれば、もしくは、どんなスキルを習得すれば、同じ8時間で成果を2から10に上げられるか」と考えるのではなく、「成果が2しかできていなくて申し訳ない。せめて1日13時間働いて、頑張っていることを示そう」と考えてしまう人がいるってことです。たぶんそれまでの人生で、「頑張るコト」自体が評価されると刷り込まれてしまったんでしょう。

 そういう洗脳を解くのも私の役目なんですけど、それがなかなか難しい。人によっては闇雲に働くことで益々成果がでなくなったりもします。ただ、一生懸命サポートしても成果が出せずに辞めていく人は存在しますが、少なくとも何の支援もしないで、アウトプットにダメだしをし、「明日までに仕上げるように」と徹夜を強いるような会社ではありません。あと、ここを辞めたら人生終わりだとは誰も思っていないということも、大きいかもしれませんけど。