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人類は絶滅を逃れられるのか
【第2回】 2016年11月28日
著者・コラム紹介バックナンバー
スティーブン・ピンカー,マルコム・グラッドウェル,マット・リデレー,藤原朝子 [学習院女子大学]

マット・リドレーが語る「人類の進歩」の可能性

核戦争、人口爆発、異常気象、AIの爆発的進化、テロリズムの跋扈……人類の未来を待っているのは繁栄か、滅亡か。スティーブン・ピンカー(『暴力の人類史』)、マルコム・グラッドウェル(『ティッピング・ポイント』)、マット・リドレー(『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』)ら知の巨人たちが21世紀の未来の姿を描き出します。11/25刊行の新刊『人類は絶滅を逃れられるのか――知の最前線が解き明かす「明日の世界」』からそのエッセンスを紹介します。第2回はマット・リドレーが21世紀の未来について語ります。

人類は協働によって進歩し続ける?

――これからの人類の未来について展望をお聞かせください。あなたはこれまでの著作で明るい展望を語ってこられたように思います。

リドレー 人間の生活水準は、この50年で著しく上昇してきました。いまや極貧人口は世界全体の10%にすぎません。人数はまだ多いですが、これはとてつもない進歩です。総合的に見て、人々は昔よりも豊かになり、健康になり、ハッピーになり、賢くなり、清潔になり、ある意味でより自由になり、もっと平和で、もっと平等にさえなっています。

貧困国の人々が豊かになるスピードは、富裕国の人々が豊かになるスピードを上回っているので、世界は平等になりつつあるのです。すべてが正しい方向に向かっているわけではありません。しかし多くの場合、間違った方向に向かっている物事は、正しい方向に向かっている物事よりも重要性が低い。

――古代のある50年間、たとえばローマ時代に農作物の収穫量が記録的に伸びた50年間を見ると、やはり寿命が伸び、流行病が減り、おそらく進歩を実感できたでしょう。それと現代の進歩はどう違うのでしょうか。

リドレー 最大の違いは、進歩がグローバルに起きていることです。過去にもローマ帝国や古代中国やインドなど、豊かな文明が生まれてきました。しかしそれは点々と存在し、世界全体に広まったことはありません。

もう一つの違いは、今はテクノロジーがあることです。多くのテクノロジーは、ひとたび手に入れると、それがなかった時代に戻ることはありません。たとえば、インターネットや現代の農業技術や医療技術がなかった時代に戻るのは、非常に、非常に、難しいでしょう。なかったことにしても、すぐに同じものを発明できてしまいますからね。これは昔との大きな違いです。そう考えると、イノベーションこそが進歩の原動力だということがわかります。

また、インターネットのおかげで、これまでになく素早くアイデアを交換し、育てることが可能になりました。私たちはいかなる問題に直面しようと、必ず解決策をみつけられるようになったのです。

もちろん未来が、これまでよりもよくなる保証はありません。その点は私も完全に同意します。未来がこれまでより絶対によくなるなんて、誰も言うべきではありません。だって、隕石が落下してきたり、有機物の爆発が起きたり、核戦争が起きたり、人間がとんでもなく非合理的な行動に走ったりしたら、進歩はストップするかもしれないでしょう?ただ、そういう悪いことよりも、よい結果になる可能性のほうが高いだろう、というのが私の主張です。

――グローバルに起きるのは新しい現象であり、今後加速していく可能性が高いというのですね。

リドレー 現在、人間が世界をよりよくする可能性は、50年前よりも高くなっています。科学技術を研究する人の数と、彼らが自由に使えるテクノロジーの量、そして彼らが得てきた知識の量を考えると、人類は50年前よりも問題解決能力が高まったと考えるべきでしょう。そもそも50年前だってそんなに悪い時代ではありませんでした。こうしたことが、未来が今よりもよくなると期待できる理由の一つです。

トーマス・マコーリー(イギリスの歴史家)は1830年にこう問いかけています。「これまでひたすら進歩してきたのに、未来には衰退しかないと考えるのは、いったいどういう原理によるものなのか」と。

――なるほど。否定派は、あなたが変化を進歩と取り違えていると主張することが予想されます。10年前は誰も携帯電話で自撮りをしていませんでしたが、今はみんなしています。しかしだからといって、人間が10年前より進歩したとは言えないのではないか、と。進歩と変化の違いをあなたはどう考えていますか。

リドレー たとえばアフリカに行って、マラリアで子どもを失ったばかりの母親に、マラリア撲滅は進歩とは呼べないと言うのは非常に難しいのではないでしょうか。世界のマラリアによる死亡率は、過去10年で60%も減りました。かなりの変化です。そしてその変化は、殺虫剤などを含浸させた蚊帳を張るというかなりアナログな技術によって、ゆっくりと実現してきました。

必ずしも携帯電話やコンピュータといった高度な技術のおかげではなく、古くからある人間の日常的な知恵を活用したにすぎません。世界の貧しい人々の生活の改善ぶりを見ると、今起きていることは進歩ではないと言うのは非常に難しいしょう。

――もう一つ否定派が突いてきそうなのが、相互にコネクトした世界では、ささいなミスや、遠く離れた場所で起きたことが、世界的な危機に発展する可能性が高まった、というものです。たとえば2008年、南フロリダの不動産市場で起きたことが、グローバルな金融危機に発展しました。あなたは、こうした相互接続性は危険だと考えますか。物事の関係が複雑になると、崩壊の可能性も高まるのでしょうか。

リドレー ある意味でその反対だと私は思います。世界のコネクティビティが高まると、私たちは崩壊に強くなるのです。食料貿易を例に説明しましょう。17世紀のフランスでは、不作が2年続くと人口の15%が死ぬ可能性がありました。同じ時期、隣国イギリスではそれなりの豊作で、人々が死ぬ心配はなくても、です。それは当時、食料の貿易がほぼ存在しなかったせいです。食料の輸送は非常にコストがかかり、遠方で空腹を抱えた人に食料を届けることは不可能だったのです。

現在は世界的な食料貿易が存在しますから、過去と同じレベルの世界的な飢饉が起きることはないでしょう。ある場所で小麦の収穫量が減ると、小麦の国際価格が少しばかり上昇するかもしれませんが、(世界最大の小麦生産地である)オーストラリア、シベリア、アルゼンチンで不作が同時に起きることはないでしょう。ここ20~30年で、飢饉は目を見張るほど減りました。

――何らかの事件や意見を見聞きして、ご自分の理論に疑問を覚えることはありますか。

リドレー 心配になることはあります。間違った方向へのトレンドです。それが強くなり過ぎれば、進歩や改善がダメになる可能性はある。

――たとえば?

リドレー盲目的な信仰です。世界じゅうで、原理主義的な宗教観に囲まれて育った人が増えています。これは特定の宗教の話ではありません。すべての宗教に言えることです。そしてどんな宗教でも、原理主義者のほうが子どもを多く持つ傾向があります。

子どもが親と同じ道をたどれば――さいわい多くの場合そうはなりませんが――、過激派や原理主義者の予備軍が大量に増えることになります。昔はこうしたことは問題になりませんでした。誰もができるだけ多くの子どもを持とうとしたため、過激派予備軍は、理知的な人々の子どもたちに凌駕されていたのです。しかし今、誤解を恐れずに言うと、理知派よりも非理知派のほうが多産だという事実は少し気がかりです。

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藤原朝子[学習院女子大学]

 

学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』(ダイヤモンド社)、『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。

 


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