海上自衛隊のイージス艦を独占的に造ってきた三菱重工業が、立て続けに艦艇の受注を逃した。客船事業で大赤字を計上したばかりの三菱重工にとっては、泣きっ面に蜂である。実は、この事態は三菱重工の危機であると同時に、日本の技術を結集させた艦艇建造の危機でもあるのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)
防衛省・海上自衛隊向けの艦艇の受注競争に異変が起きている。
現存する日本のイージス艦6隻のうち5隻を建造してきた三菱重工業が昨年、新型イージス艦の1番船(艦載武器システムを含めて約1700億円、船体は400億円)の受注に失敗。それに続き、今年の入札でも2番船(1番船とほぼ同額)を取り逃がしたのだ。
いずれも受注したのはジャパンマリンユナイテッド(JMU)だ。2013年にJFEホールディングスやIHIなどが設立した同社は新型イージス艦2隻のほか、大型ヘリコプター搭載艦4隻(直近の2隻で合計2300億円)も連続建造しており、艦艇の受注争奪戦で圧勝している。
その結果、三菱重工長崎造船所の艦艇専用工場は、来年秋に護衛艦1隻を進水させるとドックで造る艦艇がなくなってしまう。戦艦「武蔵」を建造した名門工場にあるまじき事態に陥っているのだ。
艦艇事業の惨敗は、大型客船の建造失敗で累計2300億円超の特別損失を出している三菱重工にとって泣きっ面に蜂だ。
水上艦と呼ばれる艦艇を造る日本の造船会社は三菱重工とJMU、三井造船の3社しかない。かつては旧防衛庁が3社の建造能力に応じて仕事を割り振っていた。
競争入札で疲弊
コスト算定に異議
強まる改善要求の声
だが、1999年に競争入札が導入されてから従来の“秩序”が崩壊。低価格で応札したJMUが大型案件を立て続けに受注したことで、三菱重工が内に秘めてきた不満を爆発させている。
不満は大きく二つある。
一つは技術力への対価が不十分なことだ。イージス艦は、同型の船を複数造る。当然、各シリーズの1番船は重要で、艦艇メーカーが技術の粋を集めて設計する。
既存のイージス艦には二つのシリーズがあり、いずれも1番船は三菱重工が設計した。つまり、同社の技術力が日本のイージス艦の礎を築いたといっていい。三菱重工関係者は、「JMUが手掛ける新型イージス艦の基本設計は、われわれの技術が土台になっている。貢献は小さくないはずなのだが」と悔しさをにじませる。