本連載の第30回コラムで、「鉄鋼業界の斜陽化が加速する理由」を、管理会計や経営分析の視点で述べた。そのコラムを公表してから1年と経たないうちに、新日本製鐵と住友金属工業が経営統合するという記事がメディアを賑わせた。
今回の統合話に、筆者は別に驚きはしなかった。当時の第30回コラムを読み返していただければ、翳(かげ)りがみえ始めた産業の行き着く先に再編劇があることは「歴史の必然」として予測されたからだ。
ビジネスで必要な素養は何か、と問われた際、「歴史」を挙げる人が多い。もちろん、日々の仕事で、桶狭間や関ヶ原での戦術ノウハウが役立つわけではない。昼食どきや夜の宴会などで、歴史の一コマをキッカケとして盛り上がるケースがあるということだ。
特に経営者としての地歩を築いてきた人ほど、歴史好きは多いといえる。NHK大河ドラマが、安土桃山・忠臣蔵・幕末維新を繰り返すのは、歴史好きの人たちの琴線に触れて、視聴率が稼げるからなのだろう。
2011年の大河ドラマ「江~姫たちの戦国」も、順調な滑り出しのようだ。信長の圧倒的な存在感と、いずれ江姫の舅となる家康の重量感に加えて、秀吉の剽軽(ひょうきん)ぶりが何ともいい。
このドラマを話題にしていたとき、ある経営者が「本多平八(忠勝)なども描いてほしいよね」と語っていた。かの武将は確かに、家康の家臣として歴史の裏舞台を駆け回った功労者だ。しかし、平八を表舞台に登場させて、世間ウケするかと問われれば、難しいと答えざるを得ないだろう。
それは例えば、今回取り上げる自動車部品メーカーにも当てはまる。トヨタなどの完成車メーカーを取り上げた第50回コラムや、ソニーなどのエレクトロニクス業界を取り上げた第51回コラムなどに比べると、今回のように「ものづくり」を担う部品メーカーの話題は、世間ウケしないからだ。
部品メーカーへの関心はなぜ低い?
日本の「ものづくり」が衰退する理由
学生の就職希望企業ランキングを見ても、部品メーカーが上位を占めることはない。トヨタやソニーなどの「完成品」を手に入れるのは、若者にとっての憧れであるが、デンソーやアイシン精機などの「部品」を買いたい、というエンドユーザーはいない、という事情もある。
マスメディアなどは盛んに「ものづくり」の重要性を訴えるし、誰もが認識しているはずなのだが、現実問題として世間の関心は薄い →「ものづくり」に従事しようという人が少なくなる → 供給量(国内就業者)が減れば供給曲線は左方へシフトし、需要価格(国内賃金)が上昇する → 国内賃金の高さを嫌って、メーカーは国外脱出を図る → ニッポンの「ものづくり」はますます衰退する、という悪循環に陥る。
いまの例は、筆者の仮説に過ぎない。国内の関税や実効税率(注)が諸外国に比べて高いから → 企業は国外脱出を図り → ニッポンの「ものづくり」はますます衰退する、という仮説もあるだろう。政治やマクロ経済は、語る人の数だけ仮説が存在し、実証できない点が厄介だ。(注)実効税率については、第11回コラム(地方銀行編)参照。
ただし、部品メーカーが、いまだニッポンの産業を支えているのは疑いようのない事実だろう。それはこの業界が、本多平八に喩えられることが多いのと符合する。「家康に過ぎたるもの二つあり」の1つなのである。