地政学とビジネス

 ウォールストリートでもビジネススクールでも、地政学を企業分析に生かす手法が流行りだ。きっかけは欧州ソブリン問題とチュニジア・エジプトに端を発する“革命騒ぎ”である。

  地理的環境や政治状況が経済ひいては企業業績に大きな影響を及ぼすということを投資家も経営学者も強く再認識させられたようだ。

 時を同じくして、日本には無関心だった世界の有力投資家たちが日本の金融市場に熱い視線を送っている。特に莫大な資金力を持つ世界的な政府系ファンドの連中の鼻息は荒い。

「われわれは国別には物事を見ない。グローバルな市場での展開力に注目する」という。その中で「地政学的に日本企業は有利だ。成長センターのアジアに近い。日本という国にはいろいろ問題があるが、グローバルに展開できる日本企業は魅力的だ」と自身の判断に自信を持つ。

 地理的な成長センターであるアジアへの近さだけに注目し、国の政治や財政と企業活動を切り離すことも“地政学的考察”なのだろうか?今ウォール街でも話題の「日本の未来と日本企業の未来は連動していない」という日本国・日本企業デ・カップリング論はいかがだろうか?私は切り離すことはできないとみる。所詮は運命共同体だと思うのだ。

 国家としての戦略を描けない末期症状の日本政治をよそに、たくましくアジアそして世界の新興国に進出していく日本企業。確かにたくましい。グローバル化時代のあるべき姿だ。ここアメリカでは日本企業に対する評価は厳しい。「日本企業には“カイゼン”はあるが、“戦略”はない」と言い切る研究者・実務家が多い。

 日本では「成功したベンチャーと言われる企業」も、「アメリカ発のアイデアを、時間差を利用して、特殊な日本市場という空間に翻訳しただけ。縮小する市場だけで成功しても、こちらには学ぶものはない」と手厳しい。