なお、一将棋ファンとして申し上げると、心中不本意な思いで竜王戦の挑戦手合いに臨んだにちがいない丸山九段は、一局目こそ気乗りがしないかのような敗戦であったが、二局目以降、最終の第七局まで素晴らしい将棋を見せてくれた。彼が取った行動は妥当だった。今は、「おつかれさま」と申し上げて、同九段の今後の活躍に大いに期待したい。

 さて、本稿では、主として日本将棋連盟が「なぜ」・「どこで」間違えたのかについて検討して、日本将棋連盟以外の組織にも参考となる「教訓」を探したい。将棋では、敗因となった悪手の特定と、その悪手を指した原因を探るために通称「感想戦」(対局者による局後の検討)を行うが、感想戦は、次に悪手を指さないことを目的として行うものだ。

将棋連盟の第一の失敗は
弁護士に相談しなかったこと

 日本将棋連盟は、公益社団法人であり高い知名度を持っているが、ビジネスとしての実質は売上27億5000万円(平成27年度、経常収益合計)程度の中小企業だ。

 中小に限らず、企業が判断のミスを犯すことは多々ある。日本将棋連盟は、今後、今回の問題の教訓を活かして、経営を改めて発展を目指すといい。

 有力棋士による、三浦九段への疑惑の問題提起を受けた時に、日本将棋連盟が第一に失敗したのは、簡単な話で気が引けるが、「弁護士に相談しなかったこと」だろう。三浦九段の問題を報じた『週刊文春』の記事によると、有力棋士に不正の疑いを告げられた連盟の理事は、理事会及び有力棋士数名で、即ち仲間内だけで、問題を解決しようとしたようだ。

 弁護士であれば(弁護士でなくても普通のビジネスパーソンでもだが)、証拠も三浦九段本人の同意もないまま、問題を三浦九段に不利な形で表面化させたなら、三浦九段の権利を侵害したとして日本将棋連盟が訴えられて負けるリスクが大きいことを指摘したはずだ。日本将棋連盟は、自らの法的なリスクに対して、全く無防備だったと言わざるを得ない。

 企業の場合も、社員や顧客に対して著しく不利益となる行動を取る場合(たとえば、社員の解雇など)、自らに法的なリスクがないかを確認するのが常識だ。

 日本将棋連盟のサイズのビジネスで、専門の法務部門を持つ必要まではないと思うが、現役選手(つまりプロ棋士)同士の利害が対立する問題が起こりやすいビジネスだし、著作権などで微妙な問題が起こってもおかしくないのだから、法律家を理事会に加えるような取り組みが必要なのではないだろうか。

 また、棋士間のトラブルを、現役の棋士が行う対局の立会人や、現役の棋士で構成される理事会で裁定する運営の方法にも問題があるように思われる。