「LG Chem社、自動車用Liポリマ2次電池の1kWh当たりの価格は400ドル以下」(日経BP社「Tech-on」2011年2月14日)。これは、「韓国企業による電気自動車の中核技術の価格破壊」を意味する。

 筆者が書いたこの記事に関して、日系の自動車業界関係者から問い合わせが相次いだ。

 「噂には聞いていたが、文中の350~400ドル(1ドル83円換算2万9050円~3万3200円)という数字を見ると、やはりかなりの驚きだ」(電気自動車を現在販売していない大手自動車メーカー関係者)

 「これは公になった数字なのだから、(同社のセルを使用する)GMシボレー『ボルト』用はさらに安いのかもしれない」(電池メーカー関係者)

 「どうしてこのタイミングでデータを公開したのだろう?少し前の電池関連の学会(AABC/Advanced Automotive Battery Conference)でも良かったのでは?やはり、電池や急速充電器のアメリカでの標準化を見据えて、あえてSAE(米自動車技術会)を選んだのかもしれない」(電池素材関連メーカー関係者)

韓国LG Chem社製の、電気自動車およびプラグインハイブリッド車用の電池セル(容量15Ah)/写真右。その上部に民生用の小型リチウムイオン二次電池。写真中央は、BMS(バッテリーマネージメントシステム)。

 この他の方々からも、様々な意見、感想、質問があったが、皆一様に「ここまでの安さ」に驚いていた。

 本連載でこれまでに何度も、「電気自動車は電池が全てだと自動車業界で言われている」と書いた。電池とは大型リチウムイオン二次電池を指す。

 その課題は、(1)価格が高い、(2)安定した性能の製品を大量生産する製造方法の構築が難しい、(3)同電池開発では日本が世界をリードしているが、小型リチウムイオン二次電池(携帯電話、電動工具、パソコン用などの民生品)市場同様、韓国企業の追い上げが激しい、(4)中国、アメリカでも新興企業が力を伸ばしている、などが挙げられる。

 こうしたなか、やはり最大の課題は価格だ。電池業界では、価格を電池容量のkwh(キロワットアワー)あたりで表現する。2007~2008年頃は20万円/kwh。それが三菱自動車、日産自動車などの電気自動車の大量生産計画が公になった2009年には、「量産効果」によって10万円/kwhとなった。

 そして、経済産業省管轄のNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が描くリチウムイオン二次電池の開発ロードマップでは、「2015年には5万円/kwhを目指す」としてきた。

 こうした「相場変化の予測」を念頭に、日系の自動車メーカーと電池メーカーは電気自動車、プラグインハイブリッド車の研究開発、商品企画を進めてきた。そこへ、韓国LG Chemが価格破壊を仕掛けてきたのだ。同社の提示額が、日本での予測(2015年の5万円/kwh)に対して、その4年前の2011年時点で3万円/kwhなのだから、皆が驚くのは当然だ。