折しもそれは、日本が迷走していた時期と合致する。世界の需要が強烈に多様化し、アメリカをはじめとした先進国から、次々とイノベーティブな産業が生まれ始めていた。この国の未来について強烈な危機感が生まれていたのだ。

 「極端な話をすると、官製金融というのは、理論的には内閣総理大臣がお金の行き先を決めるわけですね。国がお金を集めていて、国の長が総理大臣ですから。そして銀行金融というのは、理論的には最終的に頭取がお金の行き先を決めるんです。こういう少数の人たちだけに数百兆円のリスクを委ねていいんですか、という話なんです。これだけ変化の激しい時代に、それは理想的なことなのかどうか、と」

 間接金融から直接金融にシフトするという意味は、特定の一部の人たちの考えではなく、数百万人なり、数千万人なりの考えで、お金が動いていくという意味だったのだ。これからの日本や、世界に必要なお金の行き先や、どこが一番お金を必要としているか、お金がきちんと効率よく使われていくかを、多数の判断に委ねるということである。1950年代ならともかく、2000年代には、そういう結論の導き出し方のほうがいい、と国が考えを変え始めたのである。

 「大した知識も持っていないごく普通の個人にそんな判断ができるのか。民主的な総意といっても、それは間違った方向に向かうんじゃないか。そんな声が出てくることがあります。でも、それは国民の自覚次第だと僕は思っています。なぜなら、国のすべての問題は、結果的に国民一人ひとりに帰結するから。もう誰かのせいにはできなくなるということです。当事者としての自覚が出れば、自分たちの責任として動いていくようになるはずです」
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日本にもあった<br />時代遅れの金融システムへの危機感<br />

この連載は『預けたお金が問題だった。』(上阪徹著、ダイヤモンド社刊)を基に構成されています。

日本のお金の流れは おかしい!
そのツケは 若い人が負わされている。
素朴な疑問をきっかけに、金融の民主化というビジョンを描き、自分たちの手で、自分たちのための金融機関をつくった松本大とその仲間たちの挑戦と現在。  

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