コミュニケーションの達人のような先輩だったので、相手がきちんと理解できるよう、納得できるように説明できなければ厳しく突っ込まれ、叱られるのは目に見えています。そこで先輩と会う前に辞める理由をきちんと論理構成を考えて整理し、先輩に説明したところ、こう言われました。

「わかった。お前がそこまで考えているのなら仕方がない。俺は引き留めるのをやめる。むしろ辞めることを応援する」

 そして後日、その先輩から松下幸之助著『道をひらく』を餞別にいただいたのですが、お礼を言いながら内心「俺、あの時まだ迷っていたんだけどなあ……」と思ったのを今でも覚えています。

「辞める理由」ではなく
「迷いの原因」をあぶり出せ!

 辞める理由をいろんな人に説明する必要性に迫られてしまうと、かなり迷いがあったとしても「なぜ辞めるのか?」を自問自答しているうちに考えが整理されていきます。そして自己暗示にかかり、辞める気持ちが固まっていく。だから引き留めたい人に対しては、「なぜ辞めるのか?」と聞かない方がよいのです。

 では、引き留めにはどんなアプローチをするのが有効でしょうか。もちろんすでに辞める気持ちが強く固まっている人はどうしようもありません。ただ、まだ迷いが残っている人に対しては、引き留めできる可能性はあります。

 話の切り出し方としては「どうしたの?」といった聞き方をするとよいでしょう。「辞めるとは言ったものの、まだ迷いがある」という部分が出てきやすくなるからです。迷いの内容がつかめれば、そこから慰留の糸口が見えてくるかもしれません。

 そもそも最終的に辞められるとしても、辞めるかどうか迷っている人を放置するのはよくありません。そうした社員がいるのがわかれば、自己暗示をかけさせないように作戦を立てて、きちんとフォローする形をとるべきです。