拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第20回の講義では、引き続き「技術」に焦点を当て、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 田坂広志)

一流のプロは「幽体離脱」をして、相手の視点に立つ商談や会議の直後には「反省会」を行うこと。それも、時間の流れに沿って直前の会議や商談の「追体験」をすることが重要だ

商談や会議の直後に必ず行うべき「追体験」

 今回のテーマは、「一流のプロは『幽体離脱』をして、相手の視点に立つ」。このテーマについて語ろう。

 前回の第19回の講義では、商談や交渉、会議や会合において、「直後の反省会」を習慣とすることによって、顧客や出席者の「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力が高まり、「深層対話力」が高まっていくこと、それに伴って、「仕事力」が、一段上がっていくことを述べた。

 では、具体的には、どのような手順で、この「直後の反省会」を行うのか?

 「直後の反省会」においては、まず、時間の流れに沿って「追体験」を行う。

 それが、第一の手順である。一つの場面を紹介しよう。

 ある営業チームの「反省会」。いま、客先での企画プレゼンテーションが終わったばかりである。昼食を兼ねて、喫茶店で、A営業課長を中心に、B君、C君、D君の四人が「直後の反省会」を行っている。

 A課長が切り出す。

「最初に会議室に入ったときから始めよう。何か問題があったか?」

 すぐにB君が発言する。

「会議室に案内されてすぐに、お客様が部屋に入って来られましたが、そのときには、まだ、机の上に、5種類の資料を並べ終わっていませんでした。そのため、資料を机の上にセットするまで、お客様を待たせることになってしまいました。先方のE課長が、少しイライラされていたように感じましたが、次回からは、事前に資料をセットにしてから持っていくことをするべきだと思います」

 続いてC君からもコメントが上がる。すると、 また、A課長。

「では、当方のプレゼンの最中は、どうだ?」

 すぐにD君がコメントする。

「プレゼンは、全体として、うまくいったと思いますが、プレゼンの最中のお客様の表情に留意するという意味では、あの席の並び方では、先方のF課長補佐の表情が見えませんでした。そこが残念です…」

 続いて、B君からもコメントが出る。 また、A課長。

「では、プレゼンの後の質疑応答は、どうだった?」

 今度は、C君がコメント。

「先方のG部長から、突然、あの質問が出るとは予想していませんでしたが、課長が、その質問に対して、『このあと、技術担当のCから詳しく説明を申し上げますが…』と言って、プロジェクトの技術コンセプトの説明に時間を使っていただいたので、その最中、私は、あの難しい質問にどう答えるか頭を整理することができて助かりました」

 それに対して、D君からのコメントの後、また、A課長。

「では、最後に会議室を出るとき、何か気がついたことがあるか?」

 一瞬の沈黙の後、B君が言う。

「最後に会議室で見送っていただいたとき、G部長はにこやかに見送ってくれましたが、E課長の表情が硬かったことが、少し気になります…」

 そのB君の発言に頷くC君。C君も、同じ印象を持っているようだ。