英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は困難を極めた震災後の医療現場でツイッターがいかに役立ったかを、世界に報告した日本人医師たちの話です。世界的に有名なイギリスの医学専門誌に掲載された日本人医師たちの寄稿を、複数の英語メディアが取り上げました。これはツイッターの有用性だけでなく、被災現場の情報をいかに世界が求めているかの表れではないかと、当事者だった医師は話しています。(gooニュース 加藤祐子)

世界的な雑誌に情報発信

 イギリスの医学専門誌『ランセット』といえば、門外漢の私でも知っている、伝統と権威ある世界的な学術誌です。創刊は実に1823年。日本で言えば文政6年。個人的趣味でいうと、後に勝海舟を名乗る勝麟太郎が生まれた年です。いろいろな小説にも登場する名前で、「Lancet=なんかすごそう」というイメージがかねてから植えつけられています。とはいえ門外漢なので『ランセット』を日ごろから眺めているわけではなく、このニュースを私が知ったのはBBCのサイトを眺めていてのことです。

「ツイッターは患者の『命に関わる』つながりと日本の医師たち」という13日付の記事でした。「命に関わる」と訳したのは「vital」という言葉。「不可欠な」とか「重要な」とか訳すのが普通ですが、医療の話なので、わざと本来の意味で 訳してみました。心拍数、呼吸数、血圧、体温といった生きた体の基本データを、日本でも「バイタル・サイン」という、あれです。「命」を意味するラテン語の「vita」が語源です。

 話を戻します。記事いわく「日本の震災後、慢性疾患のある患者とのやりとりにツイッターは『すばらしいシステム』だと分かったと、医師たちは言う」とのこと。「日本の医師たちは(5月14日号の)『ランセット』に寄せた手紙で、薬をどこで入手できるか患者に知らせる手段としてソーシャル・ネットワーク・サイトはバイタルだったと書いている。地震の後、電話網は使えなくなったが、インターネットのアクセスは安定していた」というのです。

 個人的な感想ですが、3/11当日に都内にいた私も電話はまったく通じず、ツイッターとスカイプ、つまりインターネットを介した通信手段に頼りきりでした。なのでこの記事を読んで「なるほど、やはりそうか」と膝を打つことしきり。BBC記事によると、ツイッターの有用性について『ランセット』に寄稿したのは、慶應義塾大学病院循環器内科の福田恵一教授と田村雄一助教とのこと。

 電話が使えない状態で、慢性疾患の患者さんに必要な薬の入手方法を伝えるため、ツイッターでメッセージを送ったことや、他の人のメッセージをボタンひとつで大勢に伝言できるツイッターならではの「リツイート(RT)」機能によって、情報がすばやく患者同士に広がっていったことなどが、紹介されています。

 そのほかBBC記事は、同じ号の『ランセット』に新潟大学医歯学総合病院の風間順一郎准教授らが寄せた投稿にも触れ、透析治療を必要とする福島県いわき市内の患者600人を、200キロ離れた新潟の病院に移動させた経験を紹介しています。さらには、医療マネジメントが専門の前田正一・慶應義塾大学大学院准教授とアイオワ大学のジェイ・スターキー医師による同誌への寄稿で、震災後の医療機関は高血圧や糖尿病など緊急ではないが治療が必要な患者ニーズに対応できなかったとして、「日本は初期治療体制を強化する必要がある」と進言していることにも、触れています。

 震災後に慢性疾患の対応が二の次三の次になってしまう問題は、同じ号の『ランセット』に寄稿した東北大学病院老年科の古川勝敏准教授と荒井啓行教授も指摘していて、「被災者の救急治療が最優先したのは当然だが、今では慢性病や精神疾患の管理が大きな課題となっている。重傷ではない、あるいは病状が深刻でない多くの患者は、高血圧や糖尿病、血栓症、パーキンソン病などといった慢性疾患のための薬を十分に確保できなかった。身体的な問題に加えて、心理的サポートを必要とする人の数は決して少なくない。我々は現場で、緊急ヘリが自分の上に墜落するのではと脅える女性や、過換気症候群と強い不安感と震えに襲われている10代少女、薬が切れてしまったため全く動けなくなっているパーキンソン病患者などを目の当たりにした」と報告しています。

 『ランセット』に寄せられた日本の医師たちの声は、ロイター通信も13日付記事で取り上げていて、これが英語圏のいろいろなメディアに配信されました。

 ロイター記事は「3月の巨大な地震と津波の後に電話回線が使えなくなった際、慢性病患者の命にかかわる治療をどこで受けられるか知らせるため、日本の医師たちはツイッターを活用した」と紹介。前述した慶應義塾大学病院の田村医師と福田医師が寄稿した内容を説明し、「肺高血圧症」という珍しい病気(日本中に約1000人しかいないとのこと)の患者60人に、血栓や心不全を防ぐために毎日必ず投与しなくてはならない薬をどこで入手できるか、ツイッターで情報を送ったことや、その患者さんたちがさらに情報を約100人に対して「リツイート」して伝言したことなどが語られています。

 ロイター記事はその上で、「最近では世界各地の医療関係者が、患者が予約や薬を飲む時間を忘れないよう、ショートメールやオンラインのソーシャルメディアを活用している」と書き添えています。

 おおもとの『ランセット』に掲載された寄稿で、慶應大学病院の福田教授と田村医師は、震災による巨大な一次的被害は世界中の誰の目にも明らかだが、「二次災害はまだ始まったばかりだ。つまり、慢性病患者にいかに医療リソースを安定的に提供し管理するかという問題だ」と警告。「震災の初期段階では、(慢性疾患治療に不可欠な薬の)サプライチェーンを確保することが困難だった」と体験を書いています。

 BBCやロイター記事が紹介したように田村医師らは、電話回線が不安定だったためツイッターを通じて患者さんたちに薬の入手方法を伝えたことのほか、被災地の患者さんにはヘリコプターで薬を届けたことなども説明。「患者ケアにはもちろん、ソーシャルメディアと平行して、直接手を貸してくれる人的支援も重要だった」として、酸素や薬を届けるために多くの医療従事者が献身的に動いてくれたことなども書き、「大震災の多くの困難を乗り越えるにあたって、人的支援とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の併用はきわめて重要だということが、我々の経験から明らかになった」と結んでいます。

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