5月25日に発表された貿易統計によると、4月の貿易収支は4637億円の赤字となった。対前年同月比で、輸出は12.5%の減、輸入は8.9%の増となった。
昨年4月の貿易収支は7292億円の黒字だったので、収支が1兆2000億円ほど悪化したことになる。
「貿易赤字が景気の足を引っ張る」は間違い
この状況に対して、「貿易収支の赤字が景気の足を引っ張る」という意見が見られる。しかし、この評価は誤りである。正しくは、「生産が拡大できないから、貿易収支が赤字になる」のだ。つまり、生産制約が原因で、貿易赤字は結果である。
「貿易収支の赤字が景気の足を引っ張る」というのは、需要不足経済でのことだ。ここでは、「生産能力には余裕があるにもかかわらず、輸出という需要が十分にないので、生産能力を十分に発揮できない」という状況が生じる。
経済危機後の日本は、典型的な需要不足経済だった。このことは、とくに自動車において顕著だった。2006年頃まで、アメリカに対する自動車輸出が増大し、生産設備が大幅に増強された。しかし、07年頃からのアメリカ金融危機の影響で、アメリカへの自動車輸出が急減した。このため、大幅な需要不足が発生した。これに対処するために、エコカー購入支援策などの需要促進策が行なわれた。
ところが、この状況が、東日本大震災によって一変したのである。震災で工場が損壊し、自動車の生産が急減した。このため、国内でも注文に応じた納品ができない状態になっている。そして、輸出も減少しているのだ。因果関係が需要不足経済の場合とは逆になっていることに注意が必要である。このことは、貿易赤字の評価に関しても、取られるべき政策に関しても、需要不足経済の場合とは180度違った考えが必要になることを意味する。
中長期的に続く生産制約
損壊した工場は、徐々に復旧されるだろう。したがって、生産も回復する。
しかし、生産を無制限に拡大することはできない。なぜなら、電力制約が厳しいからである。原子力発電を始めとする発電施設が損壊した東日本地域での電力不足は、すでに顕在化している。