山崎製パンは5月17日、小麦など原材料価格の上昇を理由に、主要製品を7月1日から食パンで平均6%値上げすると発表した。翌日には日糧製パンも平均5.9%の値上げを発表。敷島製パン、フジパンも価格アップ幅の最終検討に入った。さらに日清フーズでも、家庭用小麦粉・2次加工品で最大12%、パスタなどで同7%の値上げを決定した。
ただし、この値上げでメーカーの利益が確保されるかというと、必ずしもそうではない。たとえば値上げは受け入れられても、後でリベートの増額を要求されるということもありうる。
食品の値上げといえば、2007年に調味料やパン、カップ麺、飲料、アルコールなどの大手食品が軒並み、十数年ぶりに希望小売り価格を上げたことが記憶に新しい。当時はメーカーが揃って、原材料の高騰分を店頭価格に転嫁することへの理解を訴えた。
しかし、セブン&アイ・ホールディングスやイオンなど大手小売りがPB(プライベートブランド)を打ち出し、そのシェアが伸びるきっかけになってしまった。
メーカー大手が足並みを揃えて値上げを宣言すれば、それがそのまま実現でき、メーカーの利益に寄与するというほど日本の流通業界は単純ではないのだ。
しかも今回は東日本大震災があり、電気料金の値上げや増税など生活不安要素を前にして、消費者の関心はいかにムダな出費を減らすかに移ってきている。
「本音は明日からでも値上げしたいが、被災地に自社商品を大量に無償提供しておきながら、コストアップ負担に耐えられないから値上げするというのを消費者が納得してくれるか自信が持てない」(食品メーカー)という面もある。
今回の値上げが、小麦の使用量が多いパンや製麺などのメーカーにとどまり、さらには、希望小売り価格ではなく卸への出荷価格の値上げとなっているのにはそんな背景がある。値上げ分をその後の流通過程で吸収してくれれば消費者には負担がないのだ。
とはいえ、小売りは、「企業努力もなしに単純な値上げを認めることはありえない」(イオン)とにべもない。
メーカー側は戦々恐々としている。現在の相場状況では、小麦以外の穀物や原油の高騰なども加わる可能性もある。
夏場の節電などによる生産シフト調整に伴うコストアップや、「節電で店舗の気温が上昇するのに対応した商品の開発までも迫られる」(菓子メーカー)など、コスト上昇要因は増える一方だ。
先鞭をつけた山崎製パンは、「すべてのコスト上昇分を価格に織り込んでいない」という。
メーカー、卸、小売りのどこがコスト上昇分を負担するのか。本格的なつばぜり合いは、夏にも始まりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)