見知らぬ男女が同じ卓を囲む「相席」状態にされ、即席の合コンを行える相席居酒屋。物珍しさで訪れただけの客も一巡し、ブームも落ち着いた今こそ、冷やかしではなく真剣に出会いを求める人々が店には集っているのではないか。彼らの本音に迫るべく、筆者(女・26歳)が潜入取材を行った。(取材・文/藤野ゆり[清談社])
女性ライターが潜入取材
相席居酒屋の「今」
2014年、先駆けとなる「相席屋」がオープンして以来、手を変え品を変え驚異的なスピードで、似たようなコンセプトの店が全国に続出した相席居酒屋。オープン当初、店前には出会いを求める男女の長蛇の列ができ、3時間待ちともいわれた。どこぞの夢の国かと思うほどの大盛況ぶりだったのである。
あっというまに北海道から沖縄まで、全国的に普及した出会いの場である相席居酒屋だが、最近はさすがに以前のような行列は見かけなくなった。急速に浸透した新たな出会いの形は、ブームが収束していくのも早かった印象を受ける。
知らない人のために改めて相席屋の料金システムについて説明すると、代表的店舗では男性は30分1500円で食べ飲み放題。以降、延長10分ごとに500円がかかる。女性側の飲み食いは完全に無料(時間無制限)。こうすることで「タダならまあいいか」と女性側も気軽に店を訪れることができる。
一方、男性は店にいた時間の分だけ料金を請求されるわけだ。出会いがあれば万々歳、収穫がなければ、タダ酒とタダ飯を見知らぬ女におごったようなものである。
日曜日、友人女性と待ち合わせて都内にある相席屋に入ったのは20時ごろ。並ぶこともなくすんなりと入れたうえに、店には空席も目立った。
「すごく楽しいから、この店出て、カラオケか居酒屋で飲みなおしませんか?」
相席開始にして10分。目の前の男性はこう切りだしてきた。私と友人の前に男性2人が案内され、一通り自己紹介を終え、食べ物を各々が口に運び出した矢先である。30歳、某テレビ局で働いているという男性は、しきりに時間を気にし、会話が一段落つくたびに「この店出て、もう一軒行かない?」とまったく落ち着きがない。
誘い出すにしてもずいぶん性急だなと思い、理由を尋ねると「1時間前からこの店にいるんだけど、前のが正直ハズレでさ……」と私たちの前に相席していた女性たちの悪口を言い始めた。