過去の経験から何を学べるか

 以上をまとめれば、つぎのようになる。

 (1)世界経済危機は需要の急減という需要ショックであったため、総需要の追加が必要だった。ところが、東日本大震災は供給側で生じたショックであるため、総需要を抑制する必要がある。このように、向きが正反対の政策が必要とされていることに注意が必要である。

 (2)阪神大震災は供給側のショックではあったものの、被災地域が限定的であったため、日本全体としての供給制約は生じなかった。このため、復興投資が「巨大なケインズ政策」になり、経済を拡大させた。しかし、今回は供給制約が厳しいため、復興投資は有効需要とはならず、クラウディングアウトを引き起こす。

 (3)石油ショックは、資源の使用に強い制約がかかったという意味で、東日本大震災と同じ供給ショックであった。このときの経済政策は総需要抑制策と金融引き締め、そして円高容認であり、正しい方向のものであったと評価できる。われわれはいま、このときの経験を手本とすべきである。

 (4)戦災によって生産設備が破壊されたことも、供給ショックである。このときの復興投資は日銀引受の公共債(復興金融金庫債)によってファイナンスされたため、激しいインフレーションを引き起こした。この経験は、反面教師とすべきものだ。

 

【新刊のご案内】
『大震災後の日本経済』野口悠紀雄著、1575円(税込)、ダイヤモンド社刊

5.これまでの経済ショックとの違い

大震災によって、日本経済を束縛する条件は「需要不足」から「供給制 約」へと180度変わった。この石油ショック以来の変化にどう対処すべきか。復興財源は増税でまかなうのが最も公平、円高を阻止すれば復興投資の妨げにな る、電力抑制は統制でなく価格メカニズムの活用で…など、新しい日本をつくる処方箋を明快に示す。

ご購入はこちら⇒ [Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]

野口教授の人気コラムはこちら⇒【未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか】